ハキリアリは3カ月しか生きられない

さらに興味深いのは、睡眠時間と寿命の関係だ。クロヤマアリの寿命が2~3年に対し、ハキリアリの寿命はたったの3カ月! そして、1日の大半を寝ているカドフシアリは5~6年も生きる(飼育下だと7年生きた個体もいる)。

同じハキリアリのグループでも起源に近い、社会が小さい種は労働時間が短く、寿命は5年ほどだ。長く寝るほど寿命は長い。言い換えれば、睡眠時間が短い=労働時間が長いほどアリは短命となる。「働きすぎ」「寝ないで動く」のは、体にストレスを与え、寿命に直結すると考えられる。

ハキリアリ
写真=iStock.com/esemelwe
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睡眠時間と寿命の関係はヒトでも明らかになっている。アメリカで約17万人もの健康データを用いて調査したところ、よい睡眠習慣を持つ人は死亡率が30%下がることが判明。また、日本の自治医大が日本人男性を対象に行った研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7~8時間の人に比べ、死亡率が2.4倍高くなるといった報告もされている。

経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、先進国33カ国の中でもっとも短いそうだ。日本人……生き急いでいるのかもしれない。今は長寿国として知られているが、いつの間にか短命な国になってしまう日も近いのかもしれない。

寿命が短くなることは「悪」ではない

ただ、一方で思う。たとえば、百億年後、太陽が燃え尽きこの環境が維持できなくなる日をゴールに生物が命をつないでいこう、という時。1000億世代でゴールまでつなぐのがいいのか、100世代でつなぐのがいいのか、あるいは1世代でゴールに到達するのかは実は生物にとって重要な問題ではない。寿命が短くなることは「悪」というわけではなく、命のバトンをなんとかつないでいく、それが重要なのである。

ただ、命をつなぐことが重要だからといって「子どもを残せない個体には意味がない」などと言うのは、まったくのトンデモ話であり、世迷言よまいごとだ。耳を貸さなくていい。