※本稿は、村上貴弘『働かないアリ 過労死するアリ ヒト社会が幸せになるヒント』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
「アリがしゃべる?」と半信半疑だったが…
「アリがしゃべる」と言われたら、皆さんはどう思うだろうか?
「シジュウカラは文法を持つと言うし、アリがしゃべったとしてもおかしくないし、楽しそう!」
そう思う人がいれば、「アリがしゃべるわけがない!」と一笑にふす人もいるだろう。
会話や言語は人間固有のもの。音声でコミュニケーションを取るのは人間の専売特許。ほかの生物はもっと単純なものであってほしいという願いがあるのかもしれない。
僕自身、最初は半信半疑だった。しかし、2012年9月、パナマ共和国のバロ・コロラド島にあるスミソニアン熱帯研究所の宿舎で、「ハキリアリ」の働きアリを入れた飼育ケースを前に確信した。
アリはしゃべる。
パナマで最初に見つけたアリがキノコアリ
僕がハキリアリを含むキノコアリを研究対象に定めたのは、大学院生の時だ。修士論文の調査のため、パナマを訪れ、たまたま最初に見つけた記念すべきアリが「ハナビロキノコアリ(Cyphomyrmex rimosus)」というキノコアリだったからだ。
キノコアリはフタフシアリ亜科に属し、新熱帯を中心とした南北アメリカに分布する。現在、20属約250種が記載されている。
キノコアリには、コロニーサイズが100個体前後の社会構造が比較的単純なものから、コロニーサイズは数百万個体、働きアリの役割が細かく分類されているハキリアリまで、連続的に社会の構造が変化しているものがそろっている。
ハナビロキノコアリはその中でもかなり変わった習性を持っているキノコアリだ。一方、子どもの頃の僕のアイドル昆虫だったハキリアリもキノコアリの仲間だけれど、もっとも後から枝分かれした種になる。このようにキノコアリはさまざまな進化の道筋を検証するのに、とても適したアリなのだ。