人間は「空気振動」、アリは「基質振動」

さて、ここで、ずっと使っている「音」という表現だが、アリと人間では受けとめている「音」の伝わり方、種類が違う。物体が揺れた振動が伝わって音となるわけだが、我々人間は主に「空気振動」で音を聞いている。声は声帯を震わせて、空気を振動させることで発生させている。

アリの場合はというと、空気振動はあまり使っておらず、どちらかというと地面や木の幹など硬いものを伝っていく「基質振動」を主に感知して、「音」と認識していると僕らは考えている。

人間とメカニズムは多少違うけれど、ものの振動を波として受けとめているのは共通だ。むしろ聴覚器官が脚と触角にあることから、人間よりももっと繊細にいろいろな振動を感知しているとも言える。

人間の足音はアリにとって大迷惑?

「じゃあ、人間の足音はアリにとっては大騒音では?」と思うかもしれない。これは、現段階で確証があるわけではないが、ある閾値いきちを超えるとおそらく反応しなくなるのではないかと考えている。

僕はこれまで膨大な数の行動観察を行ってきた。その経験からすると、周囲の空気振動音や基質振動音の大きさでアリの行動が変わるというより、特定の周波数に反応しているほうが多かった。

適切なサイズの音にだけ反応し、ほかの電気信号が伝わらないようになっているのだと思う。人間だって、低周波と超音波を聴くことはできない。年齢を重ねると8000Hz以上のいわゆる「モスキート音」は聞こえなくなる。それらがたとえ爆音で鳴っていても、受容できない周波数であれば我々だって反応することができない。

では、ハキリアリは何をしゃべっているのか? 録音してそれぞれの音を分類し、音素解析したところ、約40タイプの音を抽出することができた。ただし、アリに施した刺激や状況と音の対応関係が明確で、統計的に有意でなくてはならない。