アリにとっても子育ては重要なミッション

昨今、老齢の政治家が少子化を憂いながら、女性を蔑視する表現として「子どもを云々」といった発言することがある。その背景として生物学を持ち出すことがあるのだが、大変迷惑だ。ほとんどの場合「働きアリ」は不妊で直接は子どもを残せない。にもかかわらず、この地球上に長く、太く存在し続けている。それが答えだ。

僕らは子どもを持とうが持つまいが、この地球上に生まれた瞬間に生物としての役割は十分に果たしている。あとはできる限り生きていければ、おつりがくるほどの素晴らしい達成なのだ。

社会を持つ生物にとって重要なことは、みんなで協力しながら次の世代の子どもたちを育てることだ。そのため、アリにとって子育て(もしくは妹育て)は数ある仕事の中でもっとも重要なミッションである。

ハキリアリの場合も、子育ては、それはそれは丁寧に行われる。女王アリから卵を取り上げたら、まずは表面をきれいにして、卵専用の部屋に移す。成長段階によって部屋が替わるため、幼虫になれば幼虫部屋へ、蛹になったら蛹部屋へと移動させる。

24時間、必ず誰かが幼虫の世話をしている

幼虫部屋はもっともお世話が大変だ。食料を欲しがるものには菌糸を集めて与え、不快そうにしているものがいれば、幼虫を揺すってあやす。体表面を常にきれいに掃除してあげ、時にはクルクルクルッと回しながら点検もする。おしりから液状のフンが出ればなめ取ってあげる。とにかく24時間絶対に誰かが目をかけ、大事に大事に育てる。

卵は次々と生まれるため(ハキリアリの女王は6分に1個卵を産む!)、子育てを担当する働きアリは大忙しだ。

沖縄に生息する「トゲオオハリアリ」もまた、子育てを丁寧に行う種だ。前著『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社新書)でも紹介したが、トゲオオハリアリは「子育て」という役割を与えると、不眠不休で卵や幼虫の世話をする。

岡山大学学術研究院(当時は東京大学大学院在籍)の藤岡春菜博士は、トゲオオハリアリの働きアリを卵・幼虫と同居させ観察。すると、働きアリは、冒頭で話題に出た「概日リズム」を失い、ほぼ24時間、働きっぱなしとなる。一方で、幼虫が蛹の状態になると、通常の生活リズムに戻るという。