投資家は特に目を通しておきたい「中期経営計画」

中期経営計画とは、3~5年程度の経営計画をまとめた資料です。

3年後、あるいは5年後に、この会社はこうなっていて、売上や利益はこうなるという目標を示すのと同時に、現状とのギャップを社員全員が認識することで、その目標に向かって努力するために設定されるのです。一種のロードマップのようなものと考えればいいでしょう。

これも、「なんとでも書けてしまう」などと言うと身も蓋もありませんが、参考情報のひとつとして目を通しておいたほうがいいIR資料です。

中期経営計画も、決算説明会資料や統合報告書と同じで、監査法人のチェックを受けずに開示することができるため、バラ色の将来計画を出すこともできます。

とはいえ一応、上場企業が外部に対して「わが社はこの3年(あるいは5年)で、どのような課題に取り組み、それを達成することによって、売上や利益をこのように伸ばしていきます」ということにコミットしたものですから、それに向けてどのような経営努力をしていくのか、といった経営の方向性が見えるという点で、特に投資家などは目を通しておくべきだと思います。

長期経営計画はあくまで参考程度に

ちなみに、各企業はこの中期経営計画をベースにして、さらに毎年の目標を設定するわけですが、この1年ごとの目標を設定したものを「短期経営計画」などと呼びます。

川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)
川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)

また、それとは逆に10年程度の長期的なビジョンを策定するケースもあり、これを「長期経営計画」と言います。

問題は、これらの経営計画を本当に達成できるのか、ということです。短期経営計画に関しては、1年後の目標なので、その間に不測の事態が生じて未達に終わるという可能性はそれほど高くありません。

しかし、3~5年、あるいは10年先の経営計画となると、先が長いだけに、その間に不測の事態が生じて計画が未達に終わるリスクが高まります。

たとえば最近の事例を挙げると、2020年に入ってから深刻化した新型コロナウイルスのパンデミックがあります。

恐らく2019年の時点で、未知のウイルスが世界中に広まり、経済活動が大幅に後退させられるような事態に陥るなどということは、誰も想像していなかったでしょう。当然、パンデミック以前、たとえば2019年時点に策定され、2022年に最終年度を迎えた中期経営計画は大半が未達で終わったはずです。

ましてや10年先の長期経営計画になると、そこまで先のことを読み切ることはできません。したがって、中期経営計画や長期経営計画は、あくまでも参考程度に見ておく、というくらいに考えておけば十分です。

基本的な情報は有価証券報告書を読み解けばわかりますので、ここで紹介したIR資料すべてに目を通す必要はありません。しかし、目的によっては役に立つ資料もありますので、知識として知っておくに越したことはありません。

現在は、IR資料の大半が企業のウェブサイトで公開されていますので、一度目を通してみることをおすすめします。

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