なぜ「田舎の定食屋」は混んでいるのか

新規事業というと、大きな需要を掘り起こし、全国展開するビッグビジネスをイメージする人も多いかもしれません。しかし、現実にはそのような事業を生み出せる可能性は大きくありません。むしろ小さな市場に目を向け、安定的な需要を獲得することも成功の道です。それを体現しているのが、地方にある定食店です。

失礼な言い方ですが、地方の定食店は、これといった特徴がなく、味もサービスも普通の店がほとんどです。都市部のチェーン店のほうが味も店内の雰囲気も良いかもしれません。

しかし、それでも常連らしき人たちで賑わっています。重要なのはこの事実です。

地方の定食店が賑わっている理由の1つは、周辺に競合となる店が少ないからです。

市場動向を見ると、地方は市場が縮小傾向です。人口が減っていますし、若い人を中心に都市部に人が流出していますので、大きな需要の獲得を目指すうえでは条件が悪いといえます。

ただ、地方は人や企業が少ない分だけ都市部よりも競合が少なくなります。市場が縮小しても、飲食のように生活と密着する需要がゼロになることもありません。

そのため、定食店のような生活密着型の小規模な事業は成り立ちます。地方に行くほど店が減り、中食ニーズに応えるコンビニの数も減るため、商圏内の飲食市場がブルーオーシャンになりやすいのです。

地の利を活かす低コスト運営

経営面では、店の運営コストが低いことがポイントです。小さな市場は収益が少なくなるため、その中で生き残っていくためには店舗のランニングコストを抑えることが重要です。

例えば、人件費や家賃などのコストをいかに安くできるかが重要で、それらが安いほど利益は残りやすくなります。

定食店は、だいたい2、3人の店員で切り盛りしていますので人件費の総額は安いはずです。労働単価についても、各都道府県の最低賃金(厚生労働省)を見ると、東京周辺、大阪、愛知などでは1000円を超えていますが、地方は1割ほど安い900円前後が中心です。

店舗の賃料も都市部と比べて大幅に安いですし、店舗兼住宅の持ち家である場合はさらにコストが安くできます。これらは地方の店の優位性です。

さらに、近隣に競合が少なければ店舗改装の必要性も低くなり、そのための費用も最低限に抑えられるでしょう。