NHKの方向性

近年のNHKは、受信料問題も念頭に置きながら急速に経営方針を見直してきた。

そのひとつがジェンダーバランスだ。かつては4分の1に満たなかった定期採用における女性職員の比率を半分ほどに見直した。その結果として女性職員の割合は2割を超え、女性管理職も1割を超えた。

出演者の役割や比率も見直している。それまでは30~50代の出演者では男性が圧倒的で、20代では女性が倍近かった。要は解説など、知識や人生経験が豊富で指導的立場は男性が多く、若くて見た目の良いアシスタント的役割を女性が担っていた。こうしたアンバランスを見直そうとしてきたのである。

この方針には、受信料を支払う視聴者対応でも意味がある。

伝統的な番組の作り方に満足しない、時代の変化に敏感な人々にリーチする点だ。実はNHKの視聴者は、圧倒的に中高年、特に高齢者層が多い。

裏を返せば、若者にはなかなか見られなかった。お笑いやエンタメ色が少ないために、若年層では民放に対抗できなかったのである。対策として柔らかい番組を増やす方針の時期もあった。ところが「NHKの民放化」批判も増え、公共放送の存在意義が問われる事態にもなっていた。

そこで次の手段として、若年層の“意識高い系”にリーチする挑戦が始まった。

NHK放送センター
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです

そこから始めて“視聴者層を徐々に広げていく”可能性を視野に入れたのである。今回の「光る君へ」はその一環で、今月から始まった朝ドラ「虎に翼」も伝統を打ち破る女性の生き方にスポットを当てた番組だ。

大河ドラマに話を戻そう。

去年の「どうする家康」は、春以降で視聴率は安定的に推移するようになった。伝統的な大河ドラマの視聴者はある程度脱落したが、新しい家康像に共鳴した人々が最後まで離れなかったからである。

では「どうする家康」と肩を並べた「光る君へ」は今後どうなるのか。

当初3カ月がほぼ横ばいなので、残念ながら視聴率が今後画期的に向上することは期待できないかもしれない。それでも若年層や“意識高い系”の心を捉えた意義は大きい。去年に続き、大河ドラマの新たな地平を切り拓き、NHKの向かうべき道を示す可能性が高い。

20~40代女性の支持がどこまで広がるか。今後の「まひろ」物語の進化に期待したい。

【関連記事】
藤原道長は「駆け落ち」を誘うほど本当に紫式部を愛していたのか…史料からわかる道長の女性の好み
父・兼家でも紫式部でも天皇でもない…"婚活"で大出世した藤原道長が唯一逆らえなかった人物の名前
「NHK離れ」が止まらないのに…組織存続のために「スマホ持っているだけで受信料」を狙うNHKの厚顔無恥
「テレビなしでも受信料」が実現も、ネットニュースは大幅縮小…NHKと新聞の泥仕合に根本的に欠けていること
次男は自宅で100回も性被害に…朝ドラでは描かれない笠置シヅ子を生んだ天才作曲家とジャニー喜多川の関係