労働生産性の低い“ゾンビ企業”は、もはや必要ない

【冨山】その一方で、過剰債務を抱えながら税金で延命する「ゾンビ企業」も増加してしまいました。

しかし、これまではそれがいい方向に作用した面もありました。債務超過になっても歯を食いしばって企業経営を続ければ、国から補助金やゼロゼロ融資を受けることで雇用を守れたからです。そうした会社は低賃金だったり非正規だったりするのですが、それでも失業率はずっと低いままでした。

そういうトレードオフ(両立できない関係)のような中で、ソンビ企業がある意味「バッファ」のようなものになっていました。バッファになる企業は、労働生産性が低いほうがいいんです。そのほうが、雇用吸収力が高くなりますから。

【古屋】人をたくさん雇えてしまいますからね。

【冨山】これが新陳代謝を妨げてきたことは事実なんです。労働生産性が低いゾンビ企業は、もはや必要ありません。そもそも雇用を守る必要がなくなっていますから。

【古屋】確かに日本はここ10年程ほぼ「完全雇用」です。コロナショックでも失業率はほとんど上昇しなかった。いまは完全雇用どころではなく、人手が不足するなか現場で働く人たちが歯を食いしばって我慢してがんばっている状態です。失業は、もはや今後の日本において死語となるのかもしれません。

現場の課題のなかに大転換のためのチャンスとヒントがある

【冨山】じつはいま、「安定」と「成長」は両立するんです。なぜなら日本社会は構造的人手不足時代に突入して失業不安から解放され、むしろイノベーションと新陳代謝を進めて労働生産性を上げないと社会と経済が持続性を失って逆に不安定になるからです。

ずっと前から私は言ってきたんです。「政府は余計なことするな。この流れを止めるな」と。労働生産性の低い企業を、国が一生懸命守る必要はありません。これは中小企業だけではなく、大企業にも当てはまります。このような企業には、むしろ“退出”してもらったほうがいい。

古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)
古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)

仮に廃業しても、そこで働いている人を必ずもっと生産性の高い同業者が雇ってくれます。もしくは、他社が事業を買収してくれるはずです。ゾンビ状態のまま生き延びるくらいなら、むしろ再編なり労働移動を促したほうがいいんです。

ただし、廃業や事業譲渡をして借金が残っても破産しないようなしくみを、国がつくってあげる必要はあるでしょう。

【古屋】会社を畳むことを決断した経営者のセカンドキャリアを支える仕組みが必要ですよね。それに限らず、前例のない労働供給制約社会が来るわけですから、日本が持続可能な社会をつくっていくための仕組みづくりに知恵を絞らなくてはなりません。現場の課題感や困りごとのなかに、大転換のためのチャンスとヒントがあると私は感じています。

冨山和彦氏と古屋星斗氏
撮影=大沢尚芳
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