ドライバーは10年後には今よりもっと足りない

【冨山】いま日本でさかんに議論されている「ライドシェア」の問題もそうなんです。

【古屋】一般のドライバーが自家用車を使って有償で他人を送迎するライドシェアについては、これまで何度も議論されてきました。今回、ライドシェア問題がふたたび議論の俎上に載せられたことに、私はようやく社会が転換点に差し掛かっていると感じています。現場の必要性によって、一度「やらない」と決定されたことが再び議論されているのです。

【冨山】それほど運転手不足が深刻になっているということです。しかし、この問題はライドシェア解禁だけでは解決しません。どんどん賃金が上がっていっても、働き手がそもそもいないのですから。ドライバーは10年後、20年後にはいまよりもっと足りなくなります。もう完全に局面が変わってしまったのです。

【古屋】そういう意味でも、私は今回、ライドシェアの議論が再提起されたことに、大きな希望を持っているんです。現場における圧倒的な人手不足を背景に、動かざるをえなくなったわけですから。

【冨山】「背に腹は代えられない」ということですね。

【古屋】タクシーや物流のドライバーに限らず、今後はほかの分野でもこうした議論がどんどん出てくるのではないかと期待しているんです。様々な現場で前代未聞の人手不足になっているわけで、様々な試行錯誤が必要ですから。

【冨山】リモート医療(オンライン診療)解禁の議論も、押し戻したい人はたくさんいましたが、結局押し戻せませんでした。現場で働いている医者たちがもう、リモートがないと過労死してしまうレベルで疲弊してしまっていたからです。

【古屋】勤務医さんはそうですよね。現場の人たちが「これ以上もたない」と悲鳴を上げているのですから、もう「前例が」とか「ルールが」などとは言っていられません。

【冨山】地方の公共交通体系もそうですが、日本はずっと昭和のモデルに縛られ続けてきました。あらゆる意味で、社会システムの耐用期限が過ぎてしまっているのです。

日本は30年間「安定的停滞」を選んだ

【古屋】国の政策的な論点もあると思います。たとえば産業政策や労働政策についても「労働供給制約」を前提に組み直す必要があるのではないでしょうか。

【冨山】国は中小企業に相当お金を配っていますからね。

【古屋】最近では、コロナ禍で雇用調整助成金が大量に活用されましたが、「雇用を守ること」自体は政策目標ではなくなっていくと思います。収入を上げていく、質のよい雇用をつくっていくことに重点を移さなければいけません。

【冨山】個別の企業を守るためにお金を配るのは、じつは非常に効率が悪いんです。生産性が悪いところにお金をまわすことになりますから。これまでは人が余っている時代が長く続いたため、国は「企業をつぶさないこと」を第一に、雇用を通じて社会政策を進めていました。

新自由主義的に競争をして企業が淘汰されていくと、成長率は高くなりますが、失業問題と格差問題が起きて社会が不安定化していきます。一方、失業や格差を減らして社会を安定させようとすると、成長率は停滞してしまう。

つまり、この国の政策は「不安定だが成長する」と「安定するが成長しない」の二者択一になっていた。自公政権はこの数十年、「成長」と「不安定」を選択せずに、「安定」と「成長しない」という組み合わせを選んで、全体のバランスを取りながらなんとか切り抜けてきたといえるでしょう。日本は「安定的停滞」を選んだのです。だから、30年間ずっと成長しなかった。

たとえば、私が携わった産業再生機構(政府出資の企業救済組織)では、投入した資本を使って退職金を支払ったり、転職をする時間を与えたりするアプローチでなんとか乗り切りました。それが、1990〜2000年代の日本の再生モデルだったんです。

古屋星斗氏
撮影=大沢尚芳
古屋星斗氏