いまの日本に必要なのは「撤退するしくみ」
【冨山】企業の構造や政府が設計する制度も含めて、日本は社会を大きく変革させる「ソーシャル・トランスフォーメーション」を起こさないといけません。
昭和のモデルというのは、基本的には「人口が増え続けること」を前提に設計されています。たとえば、道路が延び続け、居住面積が増え続けるのに対して「どうやって農地を守りましょうか」などと考えているわけです。
しかし、いまの状況は逆です。どんどん人口が減って耕作放棄地が増え、イノシシなどがたくさんやってきて獣害が拡大している。年々増え続けている「空き家」の問題も同じことです。
本来は、居住面積を減らして人口の集住化をどんどん進めなければいけないのに、日本はそういう状況に対応するしくみを持っていない。いわば「撤退するしくみ」のようなものが必要な段階に入ってきているんです。
【古屋】人口が分散してしまうと、生産性も上がらないですからね。
【冨山】“拡張型”の制度設計を転換するのは、経路依存の問題もあってとても大変ですが、「どう上手に縮むか」ということを日本は覚悟しなければいけません。
このままでは日本の労働力は2000万人不足する
【冨山】もう1点指摘したいのは、多くの人が「いずれどこかで出生率が劇的に上がる」といったむなしい期待を抱いているということです。
【古屋】合計特殊出生率が人口置換水準の2.07に上昇することなんてありえないですよね。日本は1975年に2を下回ってから一度も上回ったことはないですから。2023年は1.2前後で過去最低となってしまっています。
【冨山】「出生率が反転して2.2になる」などと言っている人がいるのですが、仮にいま進めている少子化対策が劇的な効果を上げても、1.5か1.6までいったら上出来。それでも世界で見たらかなり成功しているほうです。
仮にいまの水準の出生率のままだと、日本の人口は30年後に半分、60年後にさらに半分の4分の1になってしまう。崖を滑り落ちるように人口は減っていくんです。そのまま減り続けて国がなくなってしまうと困るので、「では、どうソフトランディング(軟着陸)するか」という議論をしたほうがよっぽど現実的です。
いまの人口モデル、生産性を前提とすると、このままでは日本の労働力は2000万人ぐらい不足してしまうと私は考えています。
【古屋】私たちの労働需給シミュレーションでは2040年に1100万人不足すると推定していますが、その倍くらいになるのではないか、と。そこまでいくと、もはや国が維持できないレベルですね。
【冨山】日本はもう、覚悟しなければいけないと思うんです。だからこそ、それを前提に「どうやったらその状況をしのげるのか」という長期的な戦略を描かないといけない。そういう意味では、「コロナ禍が終わって急にもとに戻ったから人手が足りなくなった」などと言っているメディアにも大きな問題があると思うんです。
【古屋】そう、勘違いもはなはだしいですよね。人口動態に起因する構造的な問題なんです。ご高齢の方が増えると医療や介護分野を想像すればわかるように、対人サービスを中心に労働需要が増えます。他方で労働供給は減るわけですから、構造的な人手不足になるのですよね。
【冨山】この人手不足は一過性のものではありません。いまの人手不足は、まだ“序の口”なんですよ。
【古屋】おっしゃる通りです。