子育て世帯に金銭給付しても子供は増えない
岸田文雄総理が打ち出した「異次元の少子化対策」のために、新たに必要な財源の規模は、毎年3.6兆円にも達する。財源の内訳は、既存の予算の組み換えで1.5兆円、歳出改革で1.1兆円、そして健康保険などに追加して徴収する「子育て支援金制度」の創設で1兆円(公費も含めれば1.3兆円に増加)としている。
しかし、この「少子化対策」と子育て支援金制度の導入には、以下のような3つの大きな問題点がある。
第1に、肝心の少子化対策としての効果のあまりの小ささである。この対策の柱は1.7兆円の児童手当をはじめとした金銭給付拡充策で、児童手当受給世帯の所得制限の撤廃、年齢制限の緩和、第3子以降の手当額の倍増などが含まれる。
こうした金銭給付は、子育て世帯に歓迎されるだろうが、それが出生数の増加にどこまで結びつくのかは不明だ。そもそも少子化の大きな要因のひとつは、家族の所得水準の高まりで、「少なく産んで大事に育てる」ために、一人当たりに多くの教育費を費やすという、人々の行動の結果である。
このため児童手当の額が増えても、既存の子どもの教育費などの増加に回ることとなり、新たな子ども数の増加にはつながりにくいという過去の研究も少なくない。1.7兆円もかけて、ろくな効果はなし。そんな恐れがあるのだ。岸田首相の施策は率直に言って「ピントがずれている」「あまりに頭が悪いと言わざるを得ない」といった声はSNSに溢れている。
第2に、結婚した夫婦の合計特殊出生率は最近でも1.9と高く、人口を維持するために必要な2.1の水準とは差があるものの、大きく下回っているわけではない。一方で全国平均の出生率が1.2台と低いのは未婚者が持続的に増えていることによる。つまり、既婚女性が1.2人しか出産していないのではなく、この数値は分母が15~49歳の全女性で未婚者も含むため自動的に減ってしまうわけだ。
未婚率の増加の大きな要因のひとつとして、女性の社会進出の高まりにもかかわらず、慢性的な残業や転勤など、旧来型の専業主婦を暗黙の前提とした企業の働き方は以前より若干改善されつつあるが、その「基本」がいまだに維持されていることを指摘しないわけにはいかない。
そうした旧態依然とした仕組みのため、女性がばりばり働きキャリアを追求しようとすれば、結婚・出産を先送り、もしくは断念するという結論にいたるケースが増える。岸田政権は、育児休業制度といった分野の改善には熱心だが、一部に反対のある専業主婦を優遇する税・社会保険制度の改革や、主として若年層の共働き世帯が希望する夫婦別姓選択などの導入の制度改革には消極的である。
そのような社会体制の中で、やむなく結婚を諦め、出産の機会を逸する女性は少なくない。子供が生まれた家庭へのサポートだけではなく、婚姻率を高める政策こそ望まれているが、岸田首相にはそのポイントが何もわかっていない。もしくは無視している。