EUとNATOを疲れさせるハンガリーの独裁政治

日本人から見ると、プーチン氏のような独裁的で強権的な政治家が30年も大統領をつづける状況は考えにくい。

しかし世界には、独裁的で強権的なリーダーはほかにもいる。EUでいえば、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相も強権的なリーダーのひとりだ。

ハンガリーのオルバーン・ビクトル首相
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相(写真=Elekes Andor/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

オルバン首相は、3月8日にアメリカのトランプ前大統領と会談して話題になった。後日、地元テレビ局のインタビューに応えて、トランプ氏が「ウクライナとロシアの戦争には『一銭も出さない』と言った」と語り、トランプ氏が再選すれば、ウクライナ支援を打ち切るという見通しを明かしたからだ。

さらにオルバン首相は「この戦争は終わる。ウクライナが自力では立てないからだ。ヨーロッパだけで支援を継続することはできない」という自身の考えも示した。

ハンガリーはEUとNATOの加盟国でありながら、「オルバン首相による独裁国家」といわれる。ウクライナ支援についても、西側諸国の足並みを乱していると問題視されている。昨年12月に欧州理事会(EU首脳会議)で500億ユーロ(約7兆9500億円)の追加支援策が検討された際も、オルバン首相が拒否権を行使し、今年2月の特別欧州理事会まで合意が見送られた。

スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相ひとりが承認に反対しつづけてきた。2月26日にようやくハンガリー議会で承認され、オルバン首相の署名を待つ状態になっている。議会承認の3日前、スウェーデンが自国製の戦闘機4機をハンガリーに売却すると両国が合意したため、裏工作ではないかと噂されているが、オルバン氏は否定している。

「駆け引き」の材料にされるウクライナ支援

EUのウクライナ支援とNATOのスウェーデン加盟は採択に全会一致が必要なため、オルバン首相ひとりに撹乱されている。特にEUはハンガリーとの駆け引きがつづき、“オルバン疲れ”が見られるほどだ。

背景には、ハンガリーへのEU補助金が凍結されたことがある。EUの補助金はコロナ禍による経済的ダメージへの復興基金で、ハンガリーが2021年5月に提出した復興計画から総額58億ユーロ(約7兆5400億円)の補助金が決まった。しかしハンガリーはEUが求めた改革措置を達成せず、2022年に補助金75億ユーロ(約9兆7500億円)の一時凍結が決定された。特に「法の支配」の欠如や人権侵害などが指摘されている。

昨年12月の欧州理事会では、ハンガリーがウクライナ支援などに強く反対したことから、全会一致で議案を通すためにハンガリーへの補助金102億ユーロ(約1兆6460億円)の凍結を解除した。オルバン首相は「凍結されたままの補助金約120億ユーロ(約1兆9365億円)も解除されたら、ウクライナ支援などの交渉に応じてもいい」と語り、さらなる駆け引きを示唆していた。EUが“オルバン疲れ”に陥るのも理解できるだろう。