3月15日から17日にかけて投票が行われたロシアの大統領選挙では、プーチン氏が過去最高の得票率で当選した。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「日本人から見ると、プーチン氏のような独裁的な政治家が30年も大統領をつづける状況は考えにくい。しかし世界的に見れば、EUではハンガリーのオルバン首相、アメリカではトランプ氏といった強権的な政治家が支持を集めつつある」という――。
2024年3月18日、モスクワで記者会見するロシアのプーチン大統領。
写真=AFP/時事通信フォト
2024年3月18日、モスクワで記者会見するロシアのプーチン大統領。

過去最高87%の得票率でプーチン大統領が再選

ロシアで3月15日から投票がはじまった大統領選、投票率77.5%は過去最高であり、7627万票を獲得したプーチン大統領の得票率も87%を超えて過去最高となった。通算5選目のプーチン大統領は、77歳になる2030年まで長期体制を維持することになる。

プーチン氏にとって、選挙の目的はもはや勝つことではない。圧倒的な勝利を示すことで、彼の永続的な支配と終わりなき戦争の正統性を刷新できると考えているように見える。「反対派は少数であり、自分を支持するロシア民衆の意思には逆らえない」と主張できることが重要なのだ。

プーチン氏は今回の選挙に向け、粛清や言論弾圧を重ねて着々と準備を進めてきた。

特に反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、昨年12月に北極圏の刑務所に収監され、2月に急死したことは国際的な非難の的になった。ロシア各地で開かれたナワリヌイ氏の追悼集会では少なくとも397人が逮捕され、モスクワ南部で葬儀があった3月1日は19都市で128人が拘束されたと報じられている。

葬儀には数千人の市民が集結し、墓地まで約1万6000人が行進して「戦争反対」「プーチンがいないロシアを」などの声をあげたと報じられた。映像を見ると3万~4万人に見えるほど多くの市民が集まっていたが、心配されたほど騒ぎは大きくならなかった。機動隊は出動したものの強制排除はなく、モスクワ市内で拘束されたのは17人だった。

なぜ「プーチン・マジョリティー」は戦争について語らないのか

ナワリヌイ氏は女性人気が高かったせいか、葬儀や行進は女性の姿が多かった。男性の場合、万が一捕まるとそのまま戦場へ送られるという政府の“飛び道具”を恐れたからという話もある。

大統領選が近づくと、言論弾圧の動きが加速した。反体制派の新聞は販売店に並ぶとすぐロシア当局が押収し、編集長が拘束されたと伝えられている。

反プーチンを掲げる人たちはごく一部であり、生命の危険を顧みずデモに参加する人は国民全体から見れば微々たるものだ。今回の選挙結果にも表れたように、プーチン氏の支持者が多数を占めることは確かだ。

この支持者たちを「プーチン・マジョリティー」と呼ぶメディアもある。静かな大衆、物言わぬ多数派という意味の「サイレント・マジョリティー」をもじったもので、実際、彼らはプーチンを支持すると積極的に発言することはない。ウクライナ戦争についてもほとんど何も語らない。あえて沈黙することで、逆説的に戦争を支持している人が多数派を占めているというのがプーチン・マジョリティーである。