EUで唯一の「独裁国家」

EUの加盟国は「自由」「平等」「法の支配」「民主主義」などの価値観を共有していることになっている。しかしハンガリーは、国際NGOフリーダムハウスの「自由度評価の指標」から見て、「自由(free)」な国ではなく、EUで唯一「一部自由(partly free)」にランクづけされている。

また、民主主義の度合いを自由主義、選挙制度、平等、参加、熟議の観点から測定するV-Dem研究所の指標でも、ハンガリーはEUで唯一の「独裁国家(選挙独裁主義)」と認定されている。

オルバン氏は1998年に35歳で首相となって2002年まで務め、2010年に再び就任して現在に至るので、通算18年の首相経験がある。政治手法はかなり強権的で、特徴を列挙すると以下のようになる。

○ 司法機関の独立性を弱める
○ 言論と報道の自由を侵食する
○ 汚職対策を打たないどころか政府上層部も不正行為に手を染める
○ 自由でない不公正な選挙を黙認(または率先)する
○ 少数民族を抑圧する
○ 学問の自由を制限する
○ ジェンダー平等を軽視する
○ 性的少数者を抑圧する

4年に一度の国政選挙で選ばれてきた首相なので、表面的には民主的な手続きによる施政といえる。しかし、自由でない不公正な選挙の結果ともいえ、オルバン氏が党首の政党フィデスは、常に議会で3分の2ほどを占めている。

なぜ独裁的な政治家は仲がいいのか

オルバン首相は親ロ、親中でも知られる。プーチン大統領と仲がいいことから、野党は「ハンガリーのプーチン」と呼んで批判している。

オルバン首相が奇妙な外交姿勢を取るのは、国内の権威主義的な体制を強化することを狙ってのことだろう。ロシア、中国との緊密な関係をテコに、EUやNATOの共同決定事案を阻止すると脅して、ハンガリーとの「対立コスト」を引きあげていく。EUはじめ他国から内政に口出しできない状況をつくり、自分の権威主義的な体制を強化しているのだ。

オルバーン首相はプーチン大統領と仲がいいことでも知られる
オルバン首相はプーチン大統領と仲がいいことでも知られる(写真=ロシア連邦大統領のウェブサイトより/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

かなりの親ロ、親中とはいえ、ハンガリーの脱EU、脱NATOは考えられない。オルバン首相の親ロ、親中はEU内でゴネ得するためのカードに過ぎないからだ。

オルバン首相の政治ポリシーは「ハンガリー第一主義」だ。自国の利益、自分の利益になれば、ロシアや中国とも良好な関係を築く。

現在のハンガリーにとって、最大の仮想敵国はアメリカだといわれる。トランプ時代のアメリカとは蜜月の関係だったのが、バイデン政権では仮想敵国とされているのだ。3月初めにトランプ氏と会談したのも、11月の大統領選で再選したらまた蜜月関係に戻るという意味なのだろう。「自国ファースト」「強権的な政治姿勢」「反ポリコレ」など共通点が多いふたりが意気投合しても不思議ではない。