「全ての人事の責任を社長の自分が背負う」

(事例)
経営予算や数字の目標がない六花亭

以前、北海道を代表するマルセイバターサンドや元祖ホワイトチョコレートのお菓子屋「六花亭」の帯広店を見て回ったことがあります。

店舗に併設されたガラス張りの工場は清潔そのもので、一番驚いたのは壁に従業員の写真が掲げてあり、その下に従業員のプロフィールが簡潔に書いてあったことです。出身地や趣味、夢中になっていること、それに担当の仕事などです。昔、社長がテレビの取材に応じていて、人事について次のように話していました。

「人事は異動も含めその人の一生を左右するかもしれないとても大切な判断を伴う。だから人任せにはできない。私がやり、全ての人事の責任を社長の自分が背負う」。「本人が異動を強く希望しても、まだその時期ではないときに異動はさせない。心の準備もでき、そろそろと思ったときに異動させる」と。

手を組み向かい側に座るビジネスマンのイメージ
写真=iStock.com/PeopleImages
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数百人のプロフィールや、異動の希望とその時期を見極めている社長の本気に脱帽しました。人事は「ひとごと」と書きます。世の中には文字通りひとごとの仕事をしている人事部が多い中、数百人の社員を抱えながら社員の情報収集と人事決断を社長自らしているのです。

「売り上げや規模は一切目指さない」という美学

六花亭は、十勝の人を雇用し、北海道の主原材料を使っている地元重視の会社です。売上予算をあえてつくっていないにもかかわらず、長年売り上げを伸ばしています。地方で人気の出た店舗は東京に進出することが多いのですが、六花亭は北海道以外一切出ません。

東京に進出しなかった二代目の小田豊社長の決断は、創業者である父親の豊四郎社長の言葉を思い出したからだそうです。「デキモノと食べ物屋は大きくなったら潰れる」。この言葉を思い出した豊社長は、「売り上げや規模は一切目指さない」という方針を決めました。だからこそ、経営予算や数字の目標がないのです。

目指すのは、顧客に喜んでいただくこと。つまり「ファンをつくること」です。「愛される会社」であるかどうかが六花亭の経営指針なのです。そのために、常日頃さまざまな社員満足向上に取り組んでいます。

(事例)
六花亭の社員満足を向上させるための取り組み

社員全員の有休消化20年連続100%は当たり前です。社員が6人以上集まって旅行をしたら、年間1人20万円を上限に7割を会社が負担する制度があります。

「今月の顔」という制度もあり、今月活躍した人が推薦され役員選考で受賞者が選ばれます。受賞者は森の中にある特別施設「六花荘」で檜風呂にゆったりつかった後、役員がホスト役で接待します。この成功体験を目指して社員も頑張ります。