グーグルやアップルなど哲学者を正規雇用する企業が増えている。哲学コンサルタントの吉田幸司さんは「前提や偏見を疑い、課題の本質を浮き彫りにする『哲学思考』が、より良い商品やサービスを作っていくうえで必要とされている」という――。

※本稿は、吉田幸司『本質を突き詰め、考え抜く 哲学思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

米IT大手グーグル(上)とアップルのロゴ(フランス・パリ)=2014年5月17日
写真=AFP/時事通信フォト
米IT大手グーグル(上)とアップルのロゴ(フランス・パリ)=2014年5月17日

筆者が「哲学」で起業したワケ

「現実世界との関わりのなかで哲学を実践したい。よりよい未来をつくるために、哲学の社会実装が不可欠だ」。

私はこうした思いを胸に、2017年5月、「哲学」で起業しました。哲学の博士号を取得し、研究職・大学教員を経て、今では中小企業から年商1兆円を超える大企業まで、さまざまな企業に対して「哲学コンサルティング」を行っています。

その突破口となったのが、「哲学シンキング(哲学思考)」という手法です。デザイナーの暗黙知を非デザイナーも真似できるようにしたのが「デザイン思考」だとすれば、哲学シンキングは、哲学者の思考の基礎を非哲学者も真似できるようにした思考術です。それは、個人でも複数人のワークショップ形式でも実践できます。

すでに複数の大手企業で導入されており、自社内に「哲学シンカー」を養成すれば、各社員や各部署が自律的に考える文化を築くことができます。

「いかに自分が考えていないかがわかった」

実際、哲学シンキングの研修を実施すると、「普段とは違う脳の部分を使っている気がした」とか、「すごく頭が疲れたけど、普段いかに自分が考えていないかがわかった」という感想をよくいただきます。

会社でも学校でも、「よく考えなさい」といわれる一方、どのように考えたらいいかを教わった経験は少ないのではないでしょうか。日本の学校教育では、答えが決まっている問題に対して一問一答の解答をする形式がほとんどです。ビジネスの現場でも、問題解決のフレームワークを習うことはあっても、自ら主体的に考える訓練が行われることはほとんどないはずです。

一方、「哲学する」とは「考えること」そのものといっても過言ではありません。哲学者カントは「人は哲学を学ぶことはできない、(中略)ただ哲学することを学ぶことができるだけだ」と言いました。単なる知識としての「哲学」ではなく、「哲学する」ことを学ぶことで、人はより深く自発的に考えることができるようになります。