「○○思考」と「哲学シンキング」の違い

メソッドの解説や企業での導入事例は書籍に譲るとして、ここでは、他の「○○思考(○○シンキング)」との違いについて紹介しましょう。

「論理的思考(ロジカルシンキング)」や「批判的思考(クリティカルシンキング)」といったベーシックなビジネス思考に始まり、数多くの企業に取り入れられている「デザイン思考」、アーティストの思考やアートを鑑賞する際の思考をビジネスに取り入れようとする「アート思考」など、近年、さまざまな「○○思考」が世に出ています。

哲学シンキングは、論理や批判を重視するという点ではロジカルシンキングやクリティカルシンキングを含んでいます。理由や根拠を問い、別の視点から考えていくことは、哲学思考の一部です。

しかし、間違いがないように合理的に考えていくだけではありません。矛盾や意見対立を契機に前提を遡り、より本質的な課題や理解に遡求していく点では、むしろそれまでの論証を覆すような「非合理性」も重視します。

前提や偏見を疑って覆し、課題を発掘

哲学シンキングはより課題発見・課題設定に力点を置き、どのような意味や価値があるかを深掘りしていきます。自分自身、あるいはチームが自覚していない前提や偏見を疑って覆し、見えていなかった課題の本質を浮き彫りにしたり、新たな意味の脈絡を形成したりします。

この点ではアート思考に親和性があるものの、哲学シンキングには「言葉」を重視する特徴があります。

例えば、商品開発・サービス設計であれ、組織開発であれ、関与者が同じ言葉を使っていても、実際にはその意味することが異なっていることがあります。

吉田幸司『本質を突き詰め、考え抜く 哲学思考』(かんき出版)
吉田幸司『本質を突き詰め、考え抜く 哲学思考』(かんき出版)

先述した「愛」や「幸せ」に限らず、普段の会議でもなんとなく理解したつもりになっているだけで通り過ぎていく言葉がないでしょうか。

組織やプロジェクトチームで共通のビジョンやコンセプトをもつことができたり、普段は問わないような深い部分まで考えを共有したりすることで、強いチームビルディングが達成されます。よりよい商品・サービス・広告などをつくっていくうえでも、理念や概念を深く掘り下げて理解していく必要があります。

哲学思考は、気づいていない前提や偏見を覆すことで、斬新な視点を見出したり、より深い課題や価値を発掘したりすることができます。さまざまなビジネスの場面で活用できますので、ぜひ取り入れてみてください。

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