欧米企業で進む哲学者の起用

もう10年ほど前のことになりますが、米グーグルで「インハウス・フィロソファー(企業内哲学者)」が雇用されていることが世界的に話題になりました。哲学の博士号をもつD.ホロヴィッツが、パーソナライズ機能やプライバシーの問題などに関わる開発プロジェクトを主導していたことが、海外メディアで報じられたのです。

2014年には、米アップルで政治哲学者J.コーエンがフルタイムで雇用されました。彼が何をしているのかは取材拒否のため明かされていませんが、「アップル・ユニバーシティー」という社内向け教育機関に配属されたことから、政治哲学的な視点での助言や研修などで活躍してきたことが予想されます。

米国以外にも、ドイツには「プロイェクト・フィロゾフィー」、オランダには「ニュー・トリビュウム」といった哲学コンサルティングの企業や団体があります。これらの組織は、議論するスキルを向上させるコーチングやセミナーを実施したり、会議のファシリテートをしてより本質的な議論に深まるように導く支援をしたりしているようです。

思考を掘り下げる「4つのステップ」

私自身、大手企業で哲学講師・アドバイザーを務めたり、哲学研修を実施したりしています。科学技術の倫理的課題や未来への責任を問う研修のほか、すでに複数の企業で導入されている「日本型哲学実装モデル」は、組織として哲学的な対話文化、哲学シンカー、仕組みを整備するモデルです。

哲学シンキングは、そのためのステップと場を提供します。「①問いを立てる」「②問いを整理する」「③議論を組み立て、視点を変える」「④核心的・革新的な問いや本質を発見する」という4つのステップで思考を掘り下げていくことができます。

「定義」や「意味」、「価値」、「基準」、「条件」、「タイミング」など、複数の角度から問い、リフレーミングすることで、意識されざる前提や固定観念を覆していきます。その結果、斬新な発想や、チームで腹落ちするコンセプトも見いだされていくのです。

メソッドを習得した哲学シンカーは、対話を深めるファシリテーターとして参与することによって、より短時間で、より深く対話を進行できる存在です。