「妻にも仕事をして、ありたい自分でいてほしい」
デンマーク人といえども、働く人は働く。仕事への関心と責任感の強さがそうさせるのだろう。
ハッセは管理職に就いてから長時間働くようになった。基本的にずっと仕事のことを考えていて、本当に仕事のことを忘れられるのは長期休暇のときだけだ。
休日でもスマホをチェックし、仕事の電話が来れば、電話に出る。家ではスマホを玄関に置いておくようにしているが、それでも、通るたびに気になって確認してしまう。休日も、別の活動をしながら、頭では仕事のことを考えている。
そんなハッセは、妻から働きすぎだと忠告され続けてきた。また、子どもたちが大きくなると、子どもたちからも、働きすぎだと注意された。
子どもには「自分たちや家族の生活への関心が欠けている。パパが近くにいる感じがしない」と指摘され、とても悲しくなった。子どもが反抗期を迎えた頃、ハッセは自分のライフスタイルを変えなければならないと思った。
現在ハッセは、平日は午後6時に帰宅する。夜もときどき仕事をするが、金曜日は午後4時に仕事を切り上げて、妻と一緒に過ごす。一緒に散歩することもあれば、ミュージアムやコンサートに出かけることもある。
だが、じつは、ハッセの妻も仕事が好きで、仕事をしすぎるタイプだと言う。現在は大学でコンサルタントの仕事をしている彼女もまた、ずっとフルタイムで働いてきた。
仕事人間のハッセは、妻がフルタイムで働くことについてはどう思っているのか尋ねてみた。もしかしたら、妻には家のことをしてほしいという気持ちがあるのだろうかと思って尋ねてみたのだが、まったく違う回答が返ってきた。
「僕が仕事を通じて社会貢献したいように、妻だって仕事をしたい。僕に自分が理想とする人生を追いかける権利があるのと同じように、妻にも自分が生きたいと思う人生を生きる権利がある。
だから、僕は、妻にも自分がしたいことをしてほしいと思ってる。僕は仕事をすることで、自分が好きになれる。妻にも仕事をして、ありたい自分でいてほしい」
仕事を通じた社会貢献に喜びを感じるハッセは、妻にも仕事を通じて喜びを感じられる人生を送ってほしいと願っている。
じつは、夫婦揃って仕事が大好きで2人とも働きすぎてしまうというデンマーク人は、私が取材した人たちにはけっこう多かった。だが、それで、家事育児の分担について喧嘩しているかというと、必ずしも、そうではない。
そこには、お互いの仕事へのリスペクトがある。また、自分が持っている権利と同じ権利を、パートナーも持つべきだという考えがある。
仕事はお金を稼ぐだけでなく、社会貢献を通じた自己実現でもある。パートナーにも、自分の人生を生きる権利がある。そう考えるからこその、夫婦共働きのフルタイムなのだ。