※本稿は、太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
企業、労働者、行政も熱い視線を注ぐ「ジョブ型雇用」
日本型の雇用システムと働き方が急速なデジタル化の進展、グローバル化で機能不全を起こしつつある。日本企業のマネジメントと働き方の根幹をなしているのが共同体型組織であり、雇用の面でいえばメンバーシップ型雇用である。
とりわけ企業経営にとって深刻な問題は、労働生産性の低迷や国際競争力の低下であり、日本式の組織、雇用システムがそれと無関係ではないことだ。
経済、社会のグローバル化は不可避であり、そこで注目されるようになったのが、いわゆる「ジョブ型」雇用である。
企業、労働者、政治・行政がそれぞれの立場からジョブ型の導入に期待をかけている。
まず企業としては、ジョブ型への転換によって終身雇用制と年功序列制のもとで膨らんだ賃金コストを削減するとともに、グローバルな競争を勝ち抜くために専門性の高い人材の獲得と育成を図ろうとする。
いっぽう労働者にとっては、専門性を高めて転職する道が開けるうえ、社内でも得意な仕事を続けることができる。会社主導ではなく自分の意思で将来のキャリアを築いていけるわけである。そのため能力開発の目標が立てやすいし、成長への意欲も湧く。またジョブ型が導入されれば、テレワークがしやすくなるなどワークライフバランスの向上が見込まれ、ひいてはジェンダーギャップの解消にもつながると考えられる。
日立製作所、富士通、資生堂などから導入を始めた
そして政治や行政の立場からすると、ジョブ型の普及によって労働力の円滑な移動が可能になり、人材不足と過剰労働力を同時に解消できる。また同一労働・同一賃金の実現にもつながると期待される。
このように三者三様の立場から、ジョブ型雇用に熱い視線を寄せるようになったのである。
日立製作所、富士通、資生堂、NTT、KDDIといった日本を代表する企業が2010年前後から、このジョブ型を導入し始め、大企業を中心に多くの日本企業が追随して取り入れるようになった。ちなみにリクルートが2022年の1~2月に行った調査によれば、有効回答296のうちジョブ型人材マネジメントを取り入れているという企業は21.9%で、検討中という企業も30.7%あった。ただ数字そのものはジョブ型をどのように定義するかによって、大きく変わってくることに注意しなければならない。
ジョブ型導入に積極的なのは個別企業だけではない。経団連は2022年の報告のなかでジョブ型雇用にあらためて言及し、導入・活用を「検討する必要がある」と明記した。そして政府もまた企業が社員に対して勤務地や職務の希望の明示を求めるなど、ジョブ型雇用への移行を推し進める方針を示している。