「仕事の割り振り方」も変えなければならない

さらに文化的な壁も軽視できない。

ジョブ型の趣旨と日本企業における職場の現状とのギャップはあまりにも大きい。たいていの会社では職場単位で仕事をするため、新しい仕事が入ってくると、上司は手の空いている部下や手際のよい部下に仕事を割り振る。部下にとって、仕事は「上から降ってくる」イメージだと表現する人もいる。ジョブ型を導入するには、このような慣行そのものを見直さなければならない。

このようにジョブ型導入の前には幾重もの壁が立ちはだかる。しかも国のさまざまな政策をはじめ、労働市場や学生の就職、労働関係法令、社会慣行など、一企業でできる範囲を超える要因もたくさん絡んでいる。社会そのものが暗黙のうちにメンバーシップ型雇用を想定しているのだ。

会議中のアジアのビジネスパーソン
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ジョブ型雇用は現在の経営環境に合わないのではないか

これまで述べたように、いざジョブ型を日本企業に導入しようとすると、いくつもの厚い壁が目の前に立ちはだかる。企業組織の枠組みだけでなく、労働市場や教育制度、社会慣行、政策の基本理念まで欧米と異なるところに、雇用システムだけ欧米式のものを持ち込もうとするところに無理があるのだ。

しかし、そこにはもっと本質的な問題が横たわっている。そもそもジョブ型は現在、および将来の経営環境に合わないのではないか、という疑問だ。

太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)
太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)

それはジョブ型の起源をたどれば容易に気がつくはずである。

18世紀にイギリスで起きた産業革命は、19世紀にアメリカなどで第二次産業革命として展開され、鉄鋼、自動車、化学などの重工業を中心に、従業員数万人、数十万人という巨大企業がつぎつぎと誕生した。

当時の重工業は市場や技術などの経営環境が比較的安定していたので、かぎられた種類の製品を低価格で大量に生産することに経営の主眼が置かれた。機械的組織と職務主義(ジョブ型雇用)は、そのような経営環境に適合したシステムだった。

ところが当時と現在とでは、企業を取り巻く環境は大きく異なる。