日本の男女賃金格差は大きく、全産業では男性100に対して女性は7割程度だ。とりわけ金融業界の格差は大きい。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「メガバンクは総合職と一般職の給与体系の一本化を発表しているが、一般職がなくなっても、一般職が担ってきた事務作業がなくなるわけではない。一本化によって、大半の事務職女性が最下層の等級に位置づけられ、結局格差が改善しない可能性がある」という――。
男女の賃金格差のイメージ
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男女の賃金格差が最も大きい業種

今年のノーベル経済学賞は、男女の賃金格差の研究で著名なハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授に決まった。格差の背景には根深い賃金差別があることを指摘しているが、それは日本でも同じだ。

今年6月末以降から本格化した人的資本情報の開示によって、今まで見えなかったものが見えてきた。その1つが男性の育休取得率や女性の管理職比率は相対的に高いのに、なぜか男女の賃金格差が大きい業種が存在することだ。

前回、金融・保険業はとくにその傾向が顕著であることを書いた。人的資本状況の開示は厚生労働省の「女性活躍推進企業データベース」や有価証券報告書に記載されている。男性の育休取得に熱心な企業ほど女性の活躍推進に注力し、女性の管理職比率も高くなる。女性の管理職比率が高まれば、賃金水準の高い役職者が増えることを意味し、男女の賃金格差も縮小することが予想される。

日本生産性本部が2023年3月末決算の東証プライム企業を調査した「有価証券報告書における人的資本開示状況(速報版)」によると、男女の賃金格差の全体平均は、男性を100とすると女性は70.8%だった。一方、「金融・保険・不動産業」の男性育休取得率は82.6%と1位、女性管理職比率も14.8%と2位であるが、男女の賃金格差では64.7%と、業種別では最も男女の賃金差が大きかった。

女性管理職は多いのに…40%前後の賃金格差の謎

また、マーサージャパンが厚生労働省の女性活躍推進の企業データベースを基に調査した男女の賃金格差の業種別順位によると、格差が最も小さい業種は「福祉」だったが、「銀行」は42位、保険は43位と最下位だった。企業規模別の賃金差は1001~5000人で銀行が男性の56.9%、保険が62.0%。5001人以上では銀行が63.8%、保険が61.4%であり、共に40%前後の賃金格差が存在する。

男性育休取得率や女性管理職比率が高いのに、なぜ銀行・保険業は男女の賃金差が大きいのか。