東証プライムに上場する金融業の男性の育休取得率は8割を超え、女性の管理職への登用も他業界に比べ熱心だ。しかし、男女賃金格差は逆に他業界より大きい。なぜなのか。ジャーナリストの溝上憲文さんは「一般職・総合職という雇用区分による賃金の差異が大きい。雇用区分を設けるのは業種特有の事情もあるだろうが、投資家からは『女性に差別的な企業』と判断されたり合理的説明を求められたりする可能性がある」という――。
育児をする男性
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大企業の男性育休取得率46.2%

上場企業を中心に人的資本情報の開示が求められている。1つが2022年7月の女性活躍推進法の省令改正で義務づけられた男女の賃金格差の開示だ。もう1つが今年4月1日に施行された男性の育児休業取得状況の公表義務化である。

開示義務のある企業は前者が従業員301人以上、後者は1000人以上であるが、開示時期は事業年度が3月末終了であれば、共に今年6月末ぐらいまでに開示する必要がある。またこの2項目と「女性管理職比率」は有価証券報告書でも開示することが求められている。

8月2日に日本生産性本部の2023年3月末決算の東証プライム企業の「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版)が公表された。調査対象は東証プライム市場上場企業のうち、6月30日時点で開示があった1225社である。

それによると、男性の育休取得率が50%以上の企業が44.9%を占めた。80%以上が19.2%と、5社に1社の割合であり、さすがに上場企業の取得率は高い。

実は厚生労働省も6月1日時点の従業員1000人超の企業の取得率の状況を公表している(「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」)。調査時点ですでに公表している企業の割合は58.3%(1066社中621社)。回答した企業の男性の育休等取得率は46.2%と高い。そのうち育児休業平均取得日数を集計している企業の育休取得日数の平均は46.5日だった。

働く男性全体の育休取得率はたった17%

しかし働く男性の全体の育休取得率は低い。厚労省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、2020年10月1日から21年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性の育休取得率は17.13%。前回調査(21年度13.97%)より3.16ポイント上昇した。

今年3月、岸田文雄首相は男性の育児休業取得率を2025年度に50%、2030年度に85%とする目標を掲げたが、政府目標の25年度50%を達成するには、さらなる取得率の急上昇が必要になる。

男女の賃金格差はどうなっているのか。前出の日本生産性本部の調査によると、男性を100とすると女性は70.8%(全体平均)。男女の間に30%近い格差があることがわかった。最も多かったのは70~75%未満の251社、続いて75~80%未満の236社だった。一方、70%未満の会社は460社。全体の42.5%を占めている。

もう1つの女性の管理職比率はどうか。5%未満の企業が全体の48.2%、15%未満が84.1%を占めるなど、上場企業でも依然として低いことがわかった。