日本の労働生産性や国際競争力は低下するばかりだ。打開策はあるのか。同志社大学教授の太田肇さんは「日本人の仕事に対する熱意は世界最低レベルだが、フリーランスの熱意は高い。メンバーシップ型やジョブ型ではなく、自営型の働き方にシフトすることで日本の衰退を止められるのではないか」という――。

※本稿は、太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

ラップトップを開いて働く
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ITの進化で急増しつつある「自営型社員」

前回、自営業、フリーランスとして働く人が台頭しつつあることを紹介した。しかし、それは現在進行しつつある「自営化」の一側面に過ぎない。「自営化」には、統計数値に表れないもう一つの側面がある。企業の社員、すなわち雇用労働者でありながら、半ば自営業のように一人でまとまった仕事をこなす働き方が広がっているのだ。ここでは、それを「自営型社員」と呼ぶことにしよう。

私はいまから四半世紀前、組織に属しながらも自分の仕事にコミット(没頭)し、仕事を軸にキャリアを築いている人を訪ねて、北は北海道から南は奄美大島まで足を運んだ。そして半ば自営業のように働く人を「半独立型」の仕事人と呼び、拙著『仕事人の時代』のなかで紹介した。

会社と委任契約で働く、証券会社の外務員や保険会社の外交員。稼いだ額の3分の1が年俸に反映される制度が適用される経営コンサルタント。事業が成功し、利益をあげたら利益に応じた報酬を受け取る社内ベンチャー。そしてプロジェクトごとに会社と契約し、貢献度に応じて利益が配分される会社の社員などである。このような働き方は、いまとなってはさほど目新しくないかもしれないが、インターネットもまだ十分に普及していない当時は、そこに新たな時代の息吹を感じたものだ。

あれから四半世紀の時を経た現在、ITの加速度的な進化とグローバル化によって、組織に属しながらも半ば自営業のように働く人は急速に増えている。

「一気通貫制」で開発・製造・営業にトータルに携わる

代表的なものの一つが、連続する複数のプロセスを一元的に管理する「一気通貫制」と呼ばれるシステムだ。一気通貫制そのものは以前から日本のメーカーでも取り入れられているが、注目したいのはそれを一人で受け持つ仕事のスタイルである。

高技術で世界的に知られるデンマークの補聴器メーカー、オーティコン。私が2016年にこの会社を訪問したとき、製造部門には課長の下に137人の「プロダクトマネジャー」がいた。彼らはプロダクト(製品)に対するマネジャーという意味でプロダクトマネジャーと呼ばれるのだ。いわゆる管理職ではないため、部下はいない。

プロダクトマネジャーは、現場でどのような技術が開発されているか、販売された製品がどれだけ売れているかを観察することと並行し、市場のニーズをくみ取って製品開発に反映させる役割も担っている。金銭が絡む場合は上司が決定権を持つが、それ以外はプロダクトマネジャーが自分の権限で仕事を進める。同社のようにデンマークの企業では、開発技術者が製品化にも携わり、営業にも回るのが普通だそうである。