「担当者一貫責任管理システム」を導入したリフォーム会社
住宅のリフォームなどを手がけるH社もその一つだ。一般にリフォーム会社では、営業、設計、施工などプロセスごとの分業体制が敷かれており、それぞれ営業担当者、プランナー、現場監督者が担当する。そして受注した工事は下請けの工務店に「丸投げ」するのが普通である。それに対してH社では、一人の営業担当者が大工、塗装、左官、内装の仕事まで管理する「担当者一貫責任管理システム」を取り入れている。
分業制は各自が専門の仕事に集中できるので効率的な半面、客の要望が現場へ正確に伝わらなかったり、工程がスムーズに進まなかったりする弊害がある。「担当者一貫責任管理システム」を採用することで、このような弊害を減らすことができるという。
もう一つ付け加えておくと、ここでもITが重要な役割を果たしている。工事現場にはカメラがセットされており、営業担当者は遠隔地からいつでも工事の進捗状況を確認できる。そのため熟練すれば、同時に5~7件程度の仕事を管理することが可能だといわれる。
「独立の道」が開かれ社員のモチベーションも向上
建築現場にも、個人単位で一気通貫型のシステムを取り入れている会社がある。
建設会社も効率化のために仕事を下請け・孫請けに出すとともに、社内では規格化して工程ごとに分業するのが普通だ。しかし静岡県沼津市に本社を置く平成建設は、1989年の創業以来、設計から施工まで社内で一貫して行う体制を取り入れている。社員約400人の4割近くが土工事、基礎工事から大工まで一人担当している(2020年時点)。いわば「棟梁集団」である。
このような体制をとることには、つぎのような利点があるという。
分業体制のもとでは、各工程をそれぞれ別の業者に手配しているので、前の工程が予定より早く終わってもつぎの工程に進めない。それに対し同社のように内製化すると、現場内の工事はシームレスに進み、前の工程が早く終われば直ちにつぎの工程に移れる。また一つの現場で複数の工程を並行して進めることもできる。建築は多岐にわたる工種が複雑に絡み合っているので、一つの工種で最速を求めるより、全体の流れのなかから無駄を省くほうが大きな効果が表れやすい。
いっぽう仕事の質については、一つの工種のスペシャリストをめざすほうが技術的な精度や難易度を高められるが、全工程を担当したほうが建築物に対する発注者側のニーズに応えやすい。ただ各工程をすべて理解するには大卒程度の知識が必要であり、育成にも時間がかかる。しかし個人事業主として独立できるだけの付加価値がつくので、彼らのモチベーションはとても高いそうである。
ちなみに「独立の道」が開かれていることは、本書(『「自営型」で働く時代』)でもたびたび言及するように、少なくとも上昇志向や自立志向の強い社員にとって、モチベーションをかき立てられるキーワードである。