午後4時までに終わらなかった仕事は夜片付ける

さて、家族との時間を過ごすために午後4時には帰宅するデンマーク人だが、じつは、隠されたカラクリがある。

ここまで読んできて、本当に午後3〜4時までにすべての仕事を片付けられるのか? それで国際競争力ナンバーワンなんて、あまりにも出来すぎではないか? と、感じられた方もいるだろう。

そうなのだ。じつは、ここがミソなのだ。

結論から言うと、本当に午後4時までにすべてを終わらせて切り上げる人もいれば、終わらなかった仕事を家に持ち帰り、夜、子どもの就寝後に1〜2時間仕事をする人もいる。

夜ではなく、早朝、家族が寝ている間に仕事をする人もいる。

なんだ、いくら効率的なデンマーク人でも、やっぱり午後4時には終われないのか。読者の皆さんをガッカリさせてしまったかもしれない。

だが、私はむしろ、だからこそ、国際競争力ナンバーワンのリアルな説得力があるし、日本人も勇気づけられるものがあると思っている。

デンマーク人は、けっこう勤勉なのだ。日本人とは少し違う意味で真面目だし、自分の役割をしっかり果たそうとする。だからこそ、どうしても終わらせなければならないと感じるタスクは家に持ち帰って、その日の夜か、翌日の早朝に終わらせる。

仕事を持ち帰るかどうかは職種によるところが大きく、現場で完結する職種の場合は、家に仕事を持ち込むことはない。だが、管理職の人はとくに、夜や早朝に1〜2時間仕事して調整している人が多い。

デンマークに駐在する日本人は、デンマーク人を決して怠け者だとは言わない。それは、午後4時には家族を優先させて帰宅するにもかかわらず、プライベートタイムをしっかり取った後、夜9時頃から深夜にかけて再びメールが活発に飛び交うからだ。

とくに管理職などの責任ある仕事をしている人は、日中にはできないタスクを夜や早朝に片付ける。

こんなデンマーク人の姿に、あなたは何を感じるだろうか。

私はその姿に、デンマーク人がプライベートライフと仕事の両方を本気で大切にしようとする責任感の強さを垣間見る。

デンマーク人が午後4時に帰宅するのは、家庭でも仕事でもきちんと自分の役割を果たそうとするからだ。

デンマーク人だって、みんながみんな午後3時や4時にすべての仕事を終えられるわけではない。それでも、家族との時間をしっかり持つために、午後4時に帰宅する。そのうえで、処理しきれなかった業務を、ファミリータイムの後に片付ける。

たしかに、責任のある管理職や自営業をしていて、本当に家族と仕事の両方を大切にしようとしたら、このルーティーンになるのかもしれない。家族だけを選ぶのではなく、仕事だけを選ぶのではなく、両方とも選ぶ。そのために、午後4時に帰宅するのだ。

夜に家で働く女性
写真=iStock.com/Laurence Dutton
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仕事は社会的責任を果たしていくことを通じた自己成長

その意味で、デンマーク人も「残業」はする。しかも、管理職や自営業の場合、残業代は無しだ。

しかし、一部の職種を除いて、一般的に、デンマーク人の残業にはそれほど悲壮感が漂っていない。それは、誰かに強制されているわけではなく、自ら選び取っているからだろう。

「夜、家で仕事をすることはある。でも、誰かに指示されているわけではない。そんなこと、強制なんてできないよ」

会社に指示されているわけではない。自分がやった方が良いと思うからやっているのだ。

インタビューでは、大半の人が、誰かに強制されているわけではなく、自分が働きたいから働いているのだと言っていた。

もちろん、ストレスフリーではないだろう。だが、彼らの言葉には「追われている感」がそれほど感じられない。「追われている感」がまったくないとは言わないが、同時に「追っている感」がある。自分が納得できるように仕事をしたいから、あるいは、翌日の仕事をスムーズにしたいから、フリータイムに仕事をして調整している。

フリータイムを使って仕事をするのは、自分の役割をきちんと果たしたいからだ。

デンマーク人にとって、仕事とは、単にお金を稼ぐ手段ではない。仕事とは、自分が関心のある分野への知識や経験を深めることであり、その役職を通じた社会貢献であり、社会的責任を果たすことである。また、社会的責任を果たしていくことを通じた自己成長である。

デンマークには、午後3〜4時に帰宅後は一切仕事しない人もいるし、夜や早朝にもう一仕事する人もいる。やりがいのある仕事、喜びを感じる仕事、使命だと思える仕事には、残業してでも立ち向かう。ただし、プライベートも同時に大切にしながら。

仕事が好きな人は、プライベートも仕事も、両方とも取ればいいのだ。あとは、バランスだ。