芸人・司会者の松本人志がホテルに女性を集め、性加害を行ったという疑惑が報じられている。ジャーナリストの柴田優呼さんは「本来、深刻な性加害事件であるはずなのに、その告発記事に『SEX上納システム』というような加害者目線の言葉が使われていることは残念だ。女性たちを救うどころか、逆効果になってしまう恐れがある」という――。
ビールで乾杯するグループ
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『週刊文春』のスクープによって芸能界の性加害問題が明るみに

週刊文春』が昨年末、吉本興業に所属する松本人志氏の性加害疑惑を報道。ジャニーズ児童性虐待問題で被害者が立ち上がったことで勇気づけられた、と松本氏の性加害を告発した女性は語っている。報道が事実であれば、これはMeToo運動だ。かねてからうわさされていた芸能界における女性への性加害問題の一端が、文春の相次ぐ告発記事によって、とうとう表に出てきているように見える。

疑惑の内容は、松本氏の後輩芸人から声をかけられ、高級ホテルで開かれた飲み会に参加したら、そこで松本氏に性行為を強要された、というもの。東京、大阪、福岡で起きたとされ、複数の女性が証言している。

だが松本氏は報道内容を否定し、訴訟を起こすと言明している。そして、告発した女性たちへのバッシングが、ネット記事やSNSなどで広がっている。

「何年もたってから、なぜ今告発するのか」「なぜ警察へ行かないのか」といった批判だ。ジャニーズ問題でも、多くの被害者が誹謗ひぼう中傷にさらされてきたが、なぜこうもたくさん、告発者を批判する声が上がるのだろうか。松本氏の人気の高さや、双方の言い分が対立していることが理由として考えられるが、今回は、それ以外の理由も背景にあるように思える。

男性との飲み会に参加する女性への偏見がひどい

端的に言うと、有名だったり権力や金を持っている男性たちとの飲み会に参加する女性たちに対する社会的な偏見があるのではないだろうか。有力者とコネクションを作ろうとするのは、さほど珍しいことではない。飲み会にその目的で参加するのは、女性よりむしろ、男性の方に多い。それなのに女性が同じ行動を取ると、なぜ批判の対象になるのだろうか。今回飲み会に参加した多くの女性たちは芸能界に関係していたという。彼女たちが有力者と知り合いになりたいと考えても、別に不思議ではない。

そうした女性たちに対し、何か特別にバイアスのかかった視線を向ける傾向が、社会の中にあるように思う。彼女たちが何を考え、どういう気持ちで参加し、その場にいたか、一方的に決めつけるような視線だ。具体的には、彼女たちを単に身体的な存在、つまり性的な対象と見なし、人として当然持っている内面を無視するということだ。こうした見方は男性の間で強いように思うが、女性の中にも偏見を持つ人はいる。だが実のところ、これは、性暴力の加害者が被害者を見るときの視線と重なっている。