「余裕」がなくなった日本社会

なぜなら、社会は都市部だけでも農村部だけでも成り立たないからである。多様性を失った社会は、衰退するほかないからである。

現代の日本では、税収も人口も都市圏に偏ってきている。

先ごろ国立社会保障・人口問題研究所が発表した2050年までの「地域別将来推計人口」によれば、東京への一極集中は、ますます進むと予想されている。

内閣府がまとめた「地域の経済2022 地方への新たな人の流れと地方のデジタル化の現状と課題」によれば、「感染症の影響で東京圏の転入超過数は大幅に解消したが2022年に入り回帰の動き」が見られるという。

感染症の拡大をきっかけに、地方圏から東京圏に移り住む人は減り、東京から近郊の3県(埼玉、千葉、神奈川)への移動が増えていた。

ほとんどの人にとって帰省先であろう地方は、高齢化と少子化が急速に進み、医療費をはじめとする社会保障費が増え、税負担は低くなっている。

都市から田舎への仕送りの構図は、明治維新以来の日本の課題とはいえ、そこに安住していられる余裕は、この社会にはもう、ない。余裕のなさは、分断になってあらわれる。高齢者の医療をめぐるインターネット上での空気が典型的だろう。

今こそ「帰省の価値」を見直すべき

高齢者に使うよりも子育て世代に使うべきだ、との主張はSNSで、逆の主張は主にテレビで見られる。アメリカほどではないものの、世論は2つに分かれつつある。

「分断」がいけない、という説教をしたいのではない。

「分断」を受け止めて、解決策を他人事ではなく考えるための格好の手段として、帰省がある、と提案したいのである。

日本という国に、誇りを感じるか、恥ずかしさを抱くか、それは人それぞれだろうし、誰かに強制されるものではない。

とはいえ、日本に生まれたり、住んでいたりする以上、この国のかたちを考えないわけにはいかない。

その国を体感するチャンスが、帰省なのではないか。

新型コロナ/再会を喜ぶ人たち
写真=時事通信フォト
年末の帰省シーズンを迎え、JR博多駅新幹線改札口で再会を喜ぶ人たち=2020年12月29日

帰省をするにせよ、しないにせよ、年末年始とは、自分たちの故郷を通して、国を想像する稀有な機会であり、その点で、今こそ帰省を見直すべき時が来ているのではないか。

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