小説家の中村航さんが主宰した小説講座からは新人賞の受賞者が相次ぎ、そのなかには現役の作家もいるという。今や伝説になっている、その講座をもとに、中村さんが書き下ろした『これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。』(祥伝社新書)より、一部を紹介する――。
原稿用紙とペン
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「一行目を読めばすべてわかる」は幻想

小説の一行目が大事だ、ということはよく言われます。確かにそうだと思います。

でも、一行目にその小説のすべてが詰まっている、とか、一行目を読めばすべてわかる、とか、そこまで行くとただの幻想です。でもそのような幻想が生まれる背景というものはあります。

一行目を書く時、作家はやはり、特別な気持ちで書きます。また執筆のなかで、一番目に触れるがゆえに、一番ブラッシュアップされるのは一行目になります。

必然的に一行目は名文となる可能性が高いのです。だから読書体験のなかで、一行目で心を摑まれる、ということが、起こるわけです。

では僕らは、どのようにその一行目を書けば良いのでしょうか?

自己紹介風のモノローグはやめたほうが良い

まず最初に、やってはいけないことから先に触れます。

慣れていない人だとついつい「この街に生まれて二〇年が経った」というような、自己紹介風のモノローグ(独白)を書いてしまいがちです。まずは説明しなきゃ、という気持ちはわかるのですが、読者にとっては“読まされている感”が強くなります。

こういう入り方は、もしかしたら、ゲームや映画や漫画の影響なのかもしれません。冒頭でモノローグや説明が始まる手法は、ゲームや映画や漫画では効果的であったりするのですが、それはヴィジュアルがあるからです(ヴィジュアルが語りを補足し、語りがヴィジュアルを補足している、わけです)。

しかし、小説の冒頭で似たような効果を出すのはとても難しい、ということを頭に置いておいてください。やめたほうが無難です。

そしてもう一つ、慣れてない人がやりがちなのは、朝起きたところから始める、というものです。目覚まし時計を止めるところから始めるのが悪いとは言いませんが、あまりに工夫がありません。こちらもやめたほうが良いです。

まとめると、説明(モノローグ)から入る、時系列で起こったことをはじめから順に述べる、この二つはできるかぎり避けましょう。