「もうローンのことを考えずに済む」

英雄さんが何も言わないので、父親はぽつりぽつり当時のことを喋り始めました。

「定年になって、退職金も思ったように出なくて、住宅ローンを完済するには足りなかった。しかも年金だって、65歳からしかもらえない。もともと貯金は1000万円もなかった。年金をもらうまでに、貯金はどんどん減っていってしまう。母さんと引っ越しも考えたんだが、家を買う金もないから賃貸しか選択肢はない。でも貸してもらえねえんだよ。どうしよう……って思っていたら、リースバックというのを知って。電話したら営業マンが来てくれて、いろいろ説明を受けたんだが、よく分からんのよ。ただとにかく引っ越しせずにこの家に住んでいられるし、もうローンのことも考えずに済む。お金も入ってくるから、今まで頑張って生きてきたんだ、温泉くらい行っても罰あたるまいと思って」

相談しなかったのは、英雄さんに家の経済が全て知られてしまうことを避けたかったからです。それに、この年齢になって少しは旅行もしたい。全てを話してしまえば、そんな些細な楽しみも奪われる気がしたとも言います。

じっくり考えれば、あっという間に家計が破綻してしまうことは分かるはずです。でも70歳を超えると、長期的な目線で物事を考えられないのかな……。英雄さんはそう感じました。

何か言えば、すぐに「うるさい!」と怒鳴っていたのも、いろんなことを聞かれたくないための強がりだったのかもしれません。

「もっと早くに相談してくれれば良かったのに」

喉元まで出かかりましたが、英雄さんはその言葉を飲み込みました。これが「老いる」ということなんだ、そう感じたからです。

繰り上げ返済をできる人は一部の人だけ

広い視野で総合的に判断する、しっかりしているようでも、高齢になるとそんな判断能力が低下するということを目の当たりにしました。

結局、仕事を退職した後も、住宅ローンが残ってしまったことが、いちばんの敗因でした。そして既に退職してしまっていたので、部屋を借りることもできなかったのです。

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でも一般的に住宅ローンは35年で組まれます。途中で繰り上げ返済すればいい、と思うかもしれませんが、実際に繰り上げ返済をどんどんできるのは、極一部の人たちではないでしょうか。マックスで借りてしまうと、毎月の返済に追われてしまい、結果として退職後もローンが残っているという状況になるのでしょう。

自分のローン残高がいくらなのか、即答できる方は、そういないと思います。

家を借りるなら、ぎりぎり現役世代じゃないとダメなんだ、ということも英雄さんは知りました。自分の時には、50代で人生の後半戦の作戦会議が必要だ! それが分かっただけでも良しとしよう、そう考えないと居ても立っても居られませんでした。

まとめ
住む場所の検討は現役世代の間に! リタイアしてからでは遅すぎます!
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