※本稿は、太田垣章子『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
空室があるのに、借りられない人がいる
コロナ禍以降、長期に亘って住宅ローンを組むのはリスキーだと、賃貸の需要は増えています。特にファミリー物件の注目度は高く、業界は物件数が足りないと活気づいています。
これは単純にファミリー層が増えたというよりは、リモートワークなどで、家で仕事をする人が増えたことから、人数以上の部屋数を求める傾向の表れだと思います。特に夫婦共働きでその二人ともがリモートワークになった場合、リビングで揃って仕事をするというのは無理があり、それぞれ個々に仕事部屋が必要になるからではないでしょうか。
一方でワンルーム等の小さな物件は、もともと供給過剰気味のところもあり、いったん今の入居者が退去してしまうと、新しい申し込み者を確保するのに苦戦するようになりました。
その理由は、単身者は今まで「寝るだけ」の部屋で良かったところ、「仕事部屋」的要素も求めざるを得なくなり、広さ的に条件を満たさなくなってしまったからです。その結果、単身者世帯用の狭い部屋は、空室が目立つようになりました。
ところが、その空室が目立つ狭い部屋ですら、70歳になるとなかなか借りられません。
空室があって、それを借りたい人がいて、相互に求めているものが合致しているようにも感じますが、高齢者はほとんど貸してもらえないのです。
実際どれくらい借りられないものなのでしょうか? 50件問い合わせをして、高齢者に部屋を貸してくれそうな対応は2、3件と言われています。
持ち家の一軒家に住み続けていた78歳女性
真千子さん(仮名・78歳)は、部屋が借りられず、ほとほと困り果てました。
もともと長年ご主人名義の持ち家に住み、2人のお子さんもその家で育て上げました。その息子たちも立派に成人し独立していくと、老夫婦には一戸建ては大きすぎるね……とご主人とも話し合っていました。
それでも長年住んだ一戸建てからの引っ越しは、荷物の整理や断捨離も大変です。物理的に荷物の量を減らしてサイズダウンしないと、引っ越しの意味がなくなります。高齢になればなるほど、その負担は計り知れません。
そのため孫が遊びに来た時に戸建ては飛び跳ねても安心とか、息子たちが家族で来ても皆で泊まれると、さまざまな理由を付け、ついつい引っ越しを先延ばしにしてきました。