箱根を正月の風物詩に育てた日テレと読売新聞の興行力
それはすごい魅力的ですよね。自宅でゴロゴロしていることが多い正月休みに、横で流れているものとして最高のコンテンツじゃないでしょうか。箱根を正月の風物詩に育て上げた、日本テレビと読売新聞の興行力はお見事というしかない。その前に、読売新聞はプロ野球の始祖でもあり、天才的な興行集団ですよ。歴史と伝統があって、箱根というネーミングもいい。アマチュアスポーツとしては夏の甲子園と並んで日本最高峰の興行だと思います。
――UNIVASの2022年度の経常収益は約11億円です。箱根駅伝の収益はどれくらいだと予想しますか?
私も全然わからないですけど、日本テレビが放映権料として10億円を出している、という報道は目にしますね。それを関東学連が運営に使っていることですか。いずれにしても、日本のアマチュアスポーツとしては破格の興行収入ということになるのでしょう。高校野球は放映権料が発生していませんが、興行収入は春夏の甲子園を合わせて10億円ほどですから。
――駅伝を強化している大学では授業料や寮費が免除されるだけでなく、奨学金(多い人で月に30万円)を出している大学もあります。この現状については、どのようにお考えですか?
箱根は視聴率30%の超優良コンテンツで、民間企業のビジネスでもあるのですから、その主役の選手が、お金をもらうのは大いに結構だと思います。ただ公平性を保つためにも、ルールは定めるべきだと思いますね。
――NCAAでは各ディビジョンでスポーツ奨学金生の枠数が決まっています。一方、箱根駅伝はすべての大学が同じステージのはずなのに大学によってスポーツ奨学生枠数がまちまちです。
NCAAはレベル・プレイング・フィールド(共通の土俵論)の考え方が根幹にあります。例えば、ディビジョン1の場合、男子のフルスカラーシップ(スポーツ奨学生)のリミットはアメフトが85人です。試合に出る人数が多いのと、どの大学にとってもアメフトの試合が稼ぎ頭だからそうなっています。
バスケは13人、野球は12人が、フルスカラーシップの最大人数となります。フルスカラーシップというのは、授業料、生活費など、細かく規定されていて、これ以上の金額や金額換算できる恩典を出すと、NCAA規則に照らして、厳しい罰則が科されます。
一方で、12人分の金額を24人で分けて使用する、ということは可能です。また、NCAAの大会への出場資格を持っている運動部は、競技に伴う道具や遠征費は大学側が負担しないといけないので、部員の数もおのずと制限されてくる。NCAA加盟の運動部は、招待制の少数精鋭が通常です。
誰でも受け入れる日本の大学運動部とはだいぶ様相が違いますが、日本でも、駅伝のような、有望高校生の争奪戦が繰り広げられている競技では、各大学で出せる奨学金の数、金額などのルールを明確にしない限り、札束合戦になるのは自明のことです。アメリカで、奨学生の数や金額、リクルートにかかる費用まで、厳密に規定しているのは、札束合戦を防ぐためでもあるのです。
――NCAAでは学生アスリートが自身の肖像権を用いて個別にスポンサー契約などを結び金銭を受け取ることが解禁されました。
NIL(ネーム・イメージ・アンド・ライクネス)ですね。2021年7月から、自分の名前、画像、肖像を使用したエンドースメント契約やスポンサーシップ、ソーシャルメディアの収益、興行活動を学生が行えることになりました。最も稼いでいる選手はアメフトのスター選手で100万ドル(日本円で約1億4000万円以上)。2位は女子の体操選手。3位も女子の体操選手で、東京五輪の金メダリストです。
――UNIVASでもNILが解禁されていくことになるんでしょうか?
日本はまだルールがないんですよ。もともと、各競技連盟のマターなので、各連盟で事情も異なります。例えば野球の場合、学生野球憲章ではNILは明確に禁止されています。陸上はどうなんですか?
――関東学連の場合、「競技者の肖像等の権利は、原則、本連盟に帰属する」という規約があるので、メーカーと金銭を伴うような契約は大学卒業後に結んでいる感じですね。もし日本の大学でもNILが解禁されれば、箱根駅伝の人気選手にはどれぐらいの価値があるのでしょうか?