批判の矛先は五輪主催者とスポンサーであるべき

市民団体の活動が世論を形成し、それが功を奏して招致を断念する結果となった。彼、彼女らの地道な行動は、一人ひとりのささやかな生活を守ったのと同時に、現場に近いところにいる招致サイドの人間の肩の荷をも下ろすことになった。つまりは生活者のあいだに横たわる分断を和らげたのだ。

敵対する相手側の心労も軽くした現実に思いをはせれば、粘り強く反対運動を続けた市民団体の方々には心からの敬意を表さずにはいられない。分断は社会の健全化を阻む。それを取り除けたことにこそ、このたびの招致断念の意義がある。

私たちが批判の矢を向けるのは、同じ生活者にではない。五輪の招致に躍起になり、その恩恵にあずかるIOCをはじめとする主催者およびスポンサーにこそ向けるべきなのだ。

スポーツは社会と密接に関わりながら行われるべき

最後に、当のスポーツ界はどう受け止めたのだろうか。

札幌五輪への出場を目指していた選手および関係者が忸怩じくじたる思いに駆られているのは想像に難くない。目標を失った若者たちの落胆は察するに余りある。だが、少し立ち止まって考えてみてほしい。

五輪が社会にどれだけの負担をかけるのか、また、招致を断念せざるを得ないほどの反対意見が社会に広がったのはなぜなのかについて、想像を及ぼしていただきたい。スポーツは、社会と切り離された場で行われるわけではなく、社会と密接に関わり合いながら、いや、社会のただなかで行われるものなのだから。

スポーツ界のなかで、スポーツの健全なあり方についての議論を深め、五輪に寄りかかることなく存続する方法を模索する。社会を構成するひとりとして、社会そのものにしかるべき関心を払わなければならない。さもなければ、スポーツ界は社会通念が及ばない世界として宙に浮き、生活世界と分断されてしまう。

分断を生み出し、社会に亀裂をもたらす五輪など、もういらない。

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