家具の技術開発から空間デザインに開発領域が変わる

現在では“何に使うかわからない”技術を研究者が粛々と開発するといったことはなく、企画の時点から営業が参加し、部門横断で一緒に製品を開発していく体制に変わっている。つまりユーザーニーズを起点に逆算していくやり方だ。

八木さんの興味の対象も、個別の製品から空間全体やそこでの働きく人そのものへと変わっていった。2012年には八木さんの所属部署ごと、東京オフィスに異動。Ud&Eco(ユニバーサルデザイン&エコデザイン)研究開発室長として大阪から転勤となった。ユニバーサルデザインは誰でも使いやすいもの、エコデザインは環境に配慮したものという意味。

「そこからは家具単体の要素技術ではなく、椅子や机の配置、音、照明など、環境を変えると社内のコミュニケーションがいかに活性化するかというような空間と働き方との関連を調査する研究に変わりました。」

どうしたら社員が働きやすいオフィス環境をつくることができるか、より健康になったりパフォーマンスが上がったりするのか、といった点に注力していくのだ。

イトーキ自体もオフィスで立ち作業をしたり、ストレッチしたりするスペースを設けるなどの健康経営を進める。社員のウェルビーイング(健康・幸せ)を高めるといった新時代のオフィスづくりのありかたを模索していたのだ。それに連動し、八木さんのチームが主体となって「ワークサイズ」(work=働く、exercise=エクササイズの造語)を発案。働きながら健康に良い行動をすることでパフォーマンスが数値的にも向上することを実証し、高い評価を受けた。

東京・京橋にあるITOKIショールーム「ZA SALON TOKYO」にて
撮影=プレジデントウーマン編集部
東京・京橋にあるITOKIショールーム「ZA SALON TOKYO」にて

八木さんはその後R&D戦略企画部長等を経て、2020年から商品開発本部ソリューション開発部長として、SaaSのサーベイシステム等データに関わるサービスの開発を担当。

そして2023年にソリューション開発統括部長に就任すると同時に執行役員に任命された。

2023年6月、政府は2030年度までに、プライム市場上場企業の女性役員の比率を30%以上に引き上げることを数値目標にする「女性版骨太の方針」を策定。これ以前にも、実力はさておきその数字目標を達成するため、女性というだけで神輿に担ぎ上げられる役員も存在するが、八木さんの場合は違う。研究と商品開発ひとすじに業務に邁進し、実績を出してきた功績が認めらたからだ。