薬を飲み忘れて具合が悪くなったという話はほとんど聞かない

たとえば私には心不全という持病があって、利尿効果のある薬を飲まされたせいで、やたらとオシッコが近くなってイヤになっちゃったから、しばらく飲むのをサボっていたらまた息が苦しくなったので、これはまずいなと思って、いまでも飲んでいるわけです。

再び飲み始めれば症状は元に戻るのですから、わざわざ医者に相談する必要があるのかと聞かれたら、その必要はないと私なら答えます。

アメリカみたいに医療費が高い国では自己判断にゆだねるケースがけっこうあるんですよ。でも、日本の場合は医療費が安いから「必ず医者に相談してね」って話になるんでしょうけど。

私も長いあいだ医者をやっていますから、薬を出しただけちゃんと飲んでくれない患者さんがいっぱいいることは知っています。そして、そういう人のほうが病気は重くならないという事実も。

医者に言われたとおり15種類もの薬を飲んでいたら、体調がおかしくなる人が出てきたって不思議じゃない。たぶん、患者さんが上手に自己判断されているんだろうと思います。

「大変です、薬を飲み忘れました」とか言って連絡をくれる患者さんもいますが、少なくとも、薬を飲み忘れて具合が悪くなったという話はほとんど聞いたことがありません。

逆に、認知症の人とかで1回飲んだのを忘れてもう1回飲んじゃったとか、多めに飲んで具合が悪くなった患者さんはいっぱい知っています。

薬の散乱したテーブルに突っ伏す人
写真=iStock.com/Slonov
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精神安定剤とか頭痛薬は最も勝手にやめていい

だから、飲むと調子が悪くなる薬を、次の診察で医師に相談するまでやめちゃいけないっていうのは、明らかに思い込みにすぎない。

僕はそう思っているんだけど、そういうことを書くと、それを読んで薬を飲まなかったために具合が悪くなった人が出た時に責任を問われるから、編集者は「やめる時は医者に必ず相談してください」なんてしょうもない注釈を入れるわけですよ。

でも、国の金を使っているのですから、本来なら飲んで具合が悪くなるような薬を出す医者こそ責任をとらないといけないと私は思います。

もっとムカついたのは、「精神安定剤は記憶障害や足がふらつく原因になるからやめたほうがいい」という文章にも、著者である私に断りなく、編集者が「医者に相談してから」と書き加えたことです。

精神安定剤とか頭痛薬っていうのは、いちばん勝手にやめていい薬なんですよ。

たとえば、頭痛がしなくなったとか、胃が荒れたから頭痛薬を飲むのをやめたとしても、それについてはさすがに医者もうるさいことを言わないと思いますよ。だけど、血圧の薬を自己判断でやめたとか言ったらムッとする医者はけっこういるはずです。

でも、頭痛薬とか睡眠薬を、調子がよかったので飲まなかったからって怒るような医者は相当ヤバい医者です。二度と行かないようにしましょう。