中高年が幸せに年を重ねるにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「晩年の人生をよりよく生きるためには、『心の老い支度』が必要になる。65歳以降にまず実践すべきは、幸せホルモンのセロトニンを分泌するため、とにかく外に出て、日光に当たる時間を長く持つことだ」という――。

※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

65歳を過ぎたら「不幸になる老い方」に注意

「やっぱり、ボケにだけはなりたくないよな」

こんなことをいう人たちがいます。あなたも、そんなふうに思っていませんか。

しかし、晩年にボケることは、決して不幸なことではありません。

私は、高年者専門の精神科医として、これまでに認知症の人々を多く診みてきました。

たしかに、認知症が進行すると、子どもの顔まで忘れてしまうといったことが起こります。

しかし、ご家族は悲しい思いをするかもしれませんが、本人はあんまり気にしていません。忘れていることも忘れてしまうからです。よいことも忘れますが、嫌な記憶も忘れられるので、その日その日をニコニコと過ごされる患者さんがほとんどです。

そして、同じホームで過ごす仲間たちと、互いに通じていない言葉で、なんとも楽しそうにおしゃべりをされています。これを老年精神医学では「偽会話(ぎかいわ)」と呼びます。

そんな、朗らかでのどかで幸せそうな姿からは、

「最後には、人は無邪気だった頃に戻れるんだなぁ」

と、老いる幸福を教えてもらえます。

反対に、「不幸になる老い方」があります。それは、「老人性うつ」を発症することです。

老人性うつとは、65歳以上の人に起こるうつ病のことで、私は、高年者の病気の中で最も怖いものではないか、と感じています。

この老人性うつは、65歳を過ぎると発症リスクが高まります。

発症すると、老いる幸福感が奪われます。来る日も来る日も不安から逃れられず、身体的な不調も続きます。大変につらい日々が続くことから、自らを死に追い込んでしまう人も多くいるのです。

多くの皆さんは、年を重ねると、体や脳の老いばかりを気にしていますが、感情の動きが失われるといった「心の老い」も問題です。

そこで、心も全身の老いを受け入れて、余裕を持ったよい年の取り方をしていきたいものです。これを私は「心の老い支度」と呼んでいます。