幸福な気持ちは、日光に当たることで生まれる

心の老い支度ができれば、老人性うつを、かなりの確率で防げます。認知症は防げませんが、認知症への恐怖は消えます。なお、本書で述べていますが、認知症は決して怖い存在ではありません。

多くの人は、晩年の人生をよりよく生きるためには、「不自由しないくらいのお金が大切」、あるいは「健康な体こそ大切」と考えます。しかし、65歳からの人生に心の健康より大事なものはない、と私は声を大にしていいたいと思います。

そこで、まず実践していただきたいのが、「外に出て、日光に当たる時間を長く持つこと」です。散歩をするのでもいいですし、ゴルフやガーデニング、パートナーや友人とのお出かけや旅行を楽しむのでもけっこうです。とにかく、外に出かけましょう。

日本の老人
写真=iStock.com/mykeyruna
※写真はイメージです

なぜなら、日光に当たることで、心の老い支度において最も重要なセロトニンが、神経から多く分泌されるからです。

セロトニンは、幸福感を伝える神経伝達物質で、「幸せホルモン」とも呼ばれます。

このセロトニンの分泌量が、人の幸福感を左右しています。

たくさん貯金があるのに、自分の足で歩ける体があるのに、家に引きこもりがちになり、自分を「不幸」と思い込む人がいます。これは、セロトニンの分泌量が少ないことが一因です。セロトニンの分泌量が減れば、今ある幸せに気づきにくくなります。

反対に、積極的に外へとくり出して、「お金がなくても、毎日楽しいし、とっても幸せ」と、ドーンと構えて暮らす人もいます。

ささやかな出来事に幸せを感じられることにも、セロトニンの分泌が関与していると考えられます。

65歳以上の15%程度はうつ状態

「私の人生、こんなもんか」

65歳を過ぎると、人生の先が見えたような気がして、あきらめの感情を持ちやすくなります。この思考こそ、「幸せホルモン」である神経伝達物質・セロトニンの分泌量が減っている証、ともいえるでしょう。

実際、65歳を過ぎると、セロトニンの分泌量が減っていきます。

セロトニンの分泌量がさらに減ってしまうと、幸福感すら覚えなくなっていきます。

すると、「もう誰にも必要とされていない」と感じ、「オレなんて、もうどうでもいいや」と投げやりな気持ちになったり、不幸を数え始めたりするようになります。こういった思考に陥ると、老人性うつを発症している可能性があるのです。

ときどき、「もう、いつお迎えが来てもかまわない」といったり、「早いところ、お迎えが来てくれないかしら」と願ったりする人がいます。

そうした言葉も、老人性うつを発症すると口にしやすくなります。セロトニンが減ってしまうと、「生」に対する前向きさを失ってしまうのです。

アメリカの老年医学の教科書には、65歳以上の5%、つまり、20人に1人がうつ病を抱えている、と書かれています。

日本では、「精神科にかかるのは恥ずかしい」と思い込んでいる人が多い傾向にあります。病院や周囲の人に頼れず、一人で苦しんでいる人の数は、日本ではかなり多いと推測されます。

私が患者さんと接している感覚では、一時的に気分が落ち込む「抑うつ状態」の人も含めて、

65歳以上の人の15%程度が老人性うつ、もしくは抑うつ状態にあるのではないか、と考えています。

なんの対策もしなければ、加齢とともにセロトニンの分泌量は減ります。だからこそ、心の老い支度ができていないと、セロトニンの分泌量は減る一方となり、気分が落ち込みやすくなってしまうのです。

セロトニンが減れば誰でもなる病気が、うつ病です。