保険代理店が明かした、ビッグモーターと保険会社のもたれあい

損保会社にとってのメリットとなった自賠責保険とは何か。

車の購入時や車検時に必ず必要となり、国が交通事故の被害者救済のために「自動車損害賠償保障法」という法律で加入を義務付けている対人保険だ。保険料は車種と保険期間ごとに一律に定められているため、ユーザーの立場からすれば、どこの保険会社で契約しても金額的な差はない。そのため、契約を結ぶ保険会社については特にこだわらず、ディーラーや中古車販売会社にお任せというパターンがほとんどだ。

逆に、複数の保険会社と代理店契約を結んでいるビッグモーターのような「乗り合い代理店」は、自賠責の契約を取る際、引き受け保険会社を自由に選ぶことができる。損保各社は、できるかぎり「自社」に契約が回ってくるよう営業活動に力を入れるというわけだ。

実際に、ビッグモーターへの入庫誘導については、全国各地の保険代理店にも強い働きかけがあった。たとえば東京海上日動では、代理店向けにビッグモーターの修理工場見学会を行い、同社の工場がいかに優れているかを繰り返しアピール。入庫誘導の実績を代理店のポイント制度と紐づけ、手数料のアップに結び付けていたという。

工場でタイヤ交換中の車
写真=iStock.com/fzant
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筆者の元には、東京海上のある代理店からこんな声が寄せられている。

「今回のことが表に出たときは、本当にショックでした。私は、TQ(Top Quality)代理店の認定を取り消されぬよう、会社に言われるがまま、たくさんのお客様をビッグモーターに紹介しました。知らなかったとはいえ、申し訳なく、自分も犯罪に手を染めたような重い気持になりました」

なぜ保険会社は自賠責保険契約を欲しがるのか

では、損保各社はなぜ、不正請求による自社の損害に目をつぶってまで自賠責保険の契約を獲得したかったのか。記者会見でその「メリット」について問われた損保ジャパンの白川社長は、次のように回答した。

「自賠責というのは、ノーロス・ノープロフィットで運営されておりますので、我々の決算利益上は大きなメリットがあるものではございません。ただし、自賠責の売り上げは収入保険料に入れて計算をしております。たとえば、我々が今月稼いだ保険料はいくらですか? というとき、自賠責の保険料も入れて計算します。当然、事業会社としては収入を伸ばしていくのが一つの目標であることは間違いないので、これをメリットとして感じていたということでございます」

「ノーロス、ノープロフィット」とは、赤字も黒字も出さないという意味だ。収支は車種ごとに細かくチェックされ、赤字が出れば自賠責保険料は引き上げられ、黒字が出たら引き下げることになっている。