「赤字も黒字も出さない」のが自賠責保険の大原則だが…

自賠責保険料の基準料率を算出している損害保険料率算出機構のウェブサイトには、この保険の性質についてこう記されている。

『民間企業である保険会社が販売する一般的な保険には、付加保険料率の中に利潤が織り込まれています。しかし、自賠責保険は、社会政策的な側面をもつ保険であることから、その保険料率は「能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない」ことが法令で規定されており、利潤や損失が生じないように算出する必要があります。これを「ノーロス・ノープロフィットの原則」といいます』

損保ジャパンのリリースによると、2022年度の自賠責による収入保険料は、20億6000万円。つまり、建前上、この中に同社の「利益」はないということになる。今年6月まで白川社長が会長を務めていた日本損害保険協会のサイトにも、『自賠責保険』については以下の記述がある。

〈保険会社の利益はありません〉
自賠責保険は、被害者の救済を目的とした社会保障的な性格を有する保険であるため、保険料に利潤は含まれておらず、保険会社の利益は発生しません。

しかし、自賠責保険における損保会社の「利益」は、本当にないのだろうか。

1契約あたり5056円の「社費」が保険会社に入ってくる

制度上「利益」はない。しかし、保険会社には、自賠責保険の契約を1件引き受けるごとに、「社費」という名の手数料が入る仕組みになっている。損害保険料率算出機構に確認したところ、2023年4月1日以降の社費は、契約1件あたり5056円。この数字は、自賠責審議会の報告書の中にも明記されている。

業界全体で見ると、この「社費」だけで年間2000億円を超えており、大変大きな額であることがわかる。ちなみに、われわれ自動車ユーザーと対面して自賠責保険の契約を行う代理店の手数料は、1契約当たり1735円だ。損保会社が手にする社費の3分の1強に過ぎない。9月8日の会見では、この「社費」についても質問が行われ、損保ジャパン・経営企画部門担当の取締役常務執行役員・山本謙介氏は、自賠責保険料の一部が「社費」=「収入」として保険会社に入ってくることを認めたうえで、こう答えた。

「自賠責保険はノーロス、ノープロフィットの原則で利益は生れておらず、社費は経費で相殺されています。ただ、お客様から頂戴している大切な保険料ですので、我々もしっかり理解し、胸にとめて対応しないといけないと考えております」

つまり、1件あたり5056円の社費は、すべて営業費(人件費や物件費)と損害調査費として使われており、保険会社にはいっさい利益はないという説明だ。自賠責審議会の報告書によれば、その内訳は、営業費3481円、損害調査費1578円となっている。

「全て使い切っている」ことになっている

繰り返しになるが、自賠責保険は赤字も黒字も出さないことが前提の保険。「社費」は損保ジャパンだけでなく、全社一律、同じ金額なので、どこの保険会社も1契約あたり平均5056円の経費を受け取り、それを全て使いきっているということになる。