ポストオフや再雇用が生み出す「働かないおじさん」問題
昭和の55歳定年の頃は、管理職も定年と同時にポストオフとなることが自然であったため何ら問題はなかった。しかし、法対応のために徐々に上がる定年年齢に合わせて、単に高年齢の役職者を据え置くわけにはいかない。若手や中堅社員の限られたポストへの管理職登用が遅れ、モチベーション低下につながり、組織の新陳代謝も滞る。だからといって部下なしの名ばかり管理職を増やし、人件費を膨張させるわけにもいかない。苦肉の策として、旧来の定年年齢を役職定年の年齢とし、その後はポストオフや再雇用などにつなげてきたのだ。
しかし、その結果の不都合も生じてきた。ポストオフや再雇用になった中高年社員の社内での位置づけが難しく、本人たちのモチベーションも低下傾向。これまで課長や部長などの役職がアイデンティティーであった人ほど、肩書をなくした喪失感はより大きい。覚悟していた人であっても、プライドを傷つけられ、働く目的や目標を失ってしまうのだ。
こうして、いわゆる「働かないおじさん」問題が生じてくる。その裏返しが年上部下を持つ上司の悩みだ。かつての自分の先輩や上司を部下に持った場合の、マネジメントのストレスは大きい。役職定年制度は、こうしたジレンマも抱えているのだ。
欧米型雇用へ安易に同調することへは疑問がある
高齢化に沿って年金支給年齢の繰り下げなどを伴いながら、高年齢者が働けるようにする年齢が徐々に引き上げられてくると、企業にとって、これまでのように“つぎはぎ”の人事制度では、もはやもたない。私は、ここで役職定年の是非を問う前に、人事制度の根本的な見直しが必要だと考えている。
もはや、多くの日本企業が終身雇用を維持することが困難なことは明らかだ。そして、人事制度の大きな流れはメンバーシップ型からジョブ型へ、賃金制度も年功型から成果型へと変化しつつあるといえよう。
しかし私は、日本企業が欧米型雇用へ安易に同調することに疑問を持っている。バブル経済崩壊以降、業績向上を目指す多くの日本企業が欧米流の成果主義やタレントマネジメントなどの導入を試みながらも、大きな成果を得られなかったことが平成の30年来の総括だったと考えるからだ。企業経営者は、日本型雇用が見直しを迫られている現状はしっかり認識しつつも、強みとして何を残し、課題として何を改革すべきかを冷静に考える必要があるだろう。