子や孫の喜ぶ姿に幸福を感じている

高齢者で考えてみると、先ほども述べたように、自分のためにお金を使う機会が減ってくるので、他人のために使うことが増えてくるかと思います。では、実際に誰に使っているのかといえば、1980年代から日本全国の高齢者を追跡調査しているデータがあります。

その2017年の調査によると、過去1年間の子ども・孫とのお金のやりとりについて、どの年代の高齢者でも、「子ども・孫へ支援した」と答えた人が、「子ども・孫から支援してもらった」と答えた人の2倍前後あったのです(*4)。大きな金額ではないものの、子や孫のためにお金を使うことで幸せを感じることができるのだと思います。

祖父母が孫のランドセルを買ってあげたいと考えるのも同じ理由でしょう。そして、利他的行為そのものに幸せを感じるだけでなく、子や孫が喜んでいる姿を見て、さらに幸福感が高まっていることでしょう。

(*4)東京都健康長寿医療センター研究所・東京大学高齢社会総合研究所・ミシガン大学(2019)、中高年者の健康と生活 No.5――「長寿社会における暮らし方の調査」2017年調査の結果報告

祖父と孫
写真=iStock.com/Tom Merton
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「FIRE」後の生活に飽きる日本人

一時期、「FIRE」(ファイア)が30~40代の人たちの間でトレンドになりました。投資や起業でお金を儲けた人が、仕事をセミリタイア(早期リタイア)してのんびり過ごすというライフスタイルのことです。しかし最近になって、FIREをやめたという話をよく聞くようになりました。セミリタイアしたものの、つまらなくて働きはじめたという人が多いのです。

私(前野)の知り合いにもいます。大金持ちになってニュージーランドに移住した男性ですが、やることがなく暇でしかたがないといって、3カ月で日本に帰ってきて次の事業をはじめています。アメリカ人やオーストラリア人は、仕事をやめて丸太小屋をつくったり、好きな趣味に打ち込んだりと、仕事以外にやりたくてたまらないことがあってセミリタイアをしている人が少なくありません。

欧米人からは、セミリタイアをやめた話をあまり聞きません。それに対して日本人は、そもそものんびり過ごすよりも働くのが好きなのでしょうか。自由でのびのびすることに生きがいを感じるのもいいですが、日本人のように仕事や貢献に生きがいを求めるのは、けっして悪いことではないとは思います。大切なのは、セミリタイアしてから、具体的にやりたいことがあるかどうかでしょう。

やりたいことを前もって描いていればよいのですが、それがないために飽きてしまうのです。実は、セミリタイアしたいのではなく、単に長期間休みたいだけなのかもしれません。