「お金に困らない=幸せ」は間違っている

結論として、高齢者がお金を通して幸せになるコツは、お金を目的にしないことです。

前野隆司、菅原育子『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)
前野隆司、菅原育子『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)

退職してから苦労したくないからと、お金を貯めることばかりに集中して、何に使うかを考えないでいると幸せになれません。ここで大切なのは、幸福になるための「なんとかなる因子」です。お金のことは「なんとかなる」と考えて、生きがいややりがいのあることを見つけるのです。お金はそのための手段と考えるほうがいいでしょう。

何をしたいのかがはっきりしないままに定年退職を迎えると、「晴れてお金は貯まったけれど、むなしさだけが残る」ことになってしまいます。実際に、勤め人をやめて不動産業で成功し、お金には困っていない年配の方を知っていますが、あまり幸せそうではありません。どうやら、趣味がないようなのです。そんな人はどうするかというと、先ほどの熱中度の調査にあったように、仕事や勉強をする人が多いのです。

仕事や勉強は自分が成長することであり、ひいては世の中の役に立ちます。誰かの役に立つことは、とくに高齢者にとって幸福度をアップさせる重要な要素です。退職したら仕事はできないと考えるのは誤りです。会社をやめても仕事はできます。日本では会社と仕事が同義語のようになっていますが、1人で起業することはもちろん、地域や社会に役立つボランティア活動も立派な仕事です。

それで月に3万円しか稼げなくても、もしかしたら1銭にもならなくても、社会に役立つ、れっきとした仕事です。

「先のこと」はいま考えたほうがいい

現在は、先行きが不安だからと、NISAがいい、いやiDeCoがいいといって、投資でお金を増やすことをメディアや企業があおっています。

もちろん、お金の不安をなくしたい気持ちはわかりますが、では、お金の不安がなくなったらどうしたいのか、定年後の人生で何をやりたいのかという議論が、すっぽりと抜け落ちていないでしょうか。お金さえ貯めれば、なんとかなると考えると失敗します。むしろ、お金はなんとかなるので、残る人生の軸となる生きがいや仕事を意識することが大切です。

先のことはあとで考えよう、と思っていると、あとになって後悔するでしょう。

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