無心になれる瞬間
「何とかしなければ」そう思って歩いていた、ある日のこと。
ふと何げなく歩くスピードを速めて、走り出しました。
当時、満足に運動もしていなかったから、もちろん速くは走ることができない。足がもつれそうになります。けれど、ハアハアと息を荒らげ、じんわりと汗をかき始めたころから、ちょっとだけ気分が軽くなるのを感じたのです。
走っている、その瞬間だけは、いろんな心配事が頭から消えていました。
その日は一〇分、一五分、走っただけでしたが、たしかにその瞬間、無心になることができたのです。この「無心になれる」ということが、僕にとってすごく救いになりました。
なぜ、走ってみようと思ったのか、僕にもわかりません。走り慣れてないから、長い距離を走ることはできない。でも、無心になれることを見つけられたことは、僕にとって大きな収穫だったのです。
マラソンが気持ちを前向きに
「マラソンを始めてみよう」
こんどは着替えて、三〇分ぐらい、歩いて、走って、歩いて走ってみました。すると、心地良い疲労感に包まれ、その日はぐっすり眠ることができたのです。
「これはもしかすると良いのかもしれない」
それから現在に至るまで、僕は天気の悪い日を除き毎日、走り続けています。
無理のない範囲で走ることを習慣にすると、心身がリフレッシュされているのを感じます。言葉で言い表すとすれば、「気が流れていく感じ」。
そんな日々を続けていくと、少しずつ「眠れない」ということ自体に対して、前向きな興味が湧いてくるようになりました。
走っているときは、仕事上のストレスも忘れ、無心になれる。もちろん、問題がそれで解決するわけではないけれども、走っていれば、少なくとも今までよりは眠りやすくなった。
少しずつ、少しずつ、良くしていこう。
気持ちが前向きに転じてくると、こんどは、「眠れない自分」の状況を良くしていくことに対し、「どんな工夫をしようかな」と考えるようになっていきました。薬に頼るのではなく、工夫すればきっと眠れるようになるはず。
そう僕は思うようになったのです。