「考え」を再評価することで自然と怒りの「感情」も収まる
再評価を研究に取り入れてから、私自身が日常的に意識して再評価を行うようになりました。イライラしているとき、怒りが収まらないときこそ「再評価、再評価」と自分に言い聞かせます。
自分の嫌な気持ちに向き合いつつ、違う視点を持てないか考え直し、ポジティブな考えを取り入れる練習を積み重ねていくと、案外うまく気持ちの切り替えができ、ネガティブな感情に素早く対処できることも増えてきました。
うまくいくことばかりではないですが、失敗も練習のうちと思い、繰り返し試みています。
私がどんなふうに再評価を取り入れているのか、もう一例ご紹介しましょう。
あるとき、子どもたちが発泡スチロールを使って工作をしていて、部屋中にバラバラになった発泡スチロールが散らばっていたことがありました。
私は「ちゃんと片付けなさい」と言ったのですが、遊びに夢中になっている子どもたちは片付けようとしません。
何度言っても一向に片付けないので、私のイライラは沸点に達しました。「子どもたちは私に敬意を持っていない」と考えだしました。子育て中の方にとっては、誰もが経験のある日常の風景ではないでしょうか。通常ならここで怒りに任せて子どもたちを叱ってしまいそうな場面です。
しかし、私はそこで立ち止まって、「自分のイライラを再評価してみよう」と思い、「感情」「考え」「行動」の順番に分けて再評価してみました。そこでまずは「今、私はこの気持ちを感じる必要があるのかな」と、自分に問いかけました。
すると「子どもたちが私の言うことを聞かないのは、本当に私に敬意がないからなのか? 単に遊んでいるのが楽しくてやめられないから、そして片付けが面倒くさいからであって、私に敬意を持っていないわけではない」と考え直すことができました。
「考え」を再評価することで自然と怒りの「感情」も収まっていき、怒鳴りそうだったにもかかわらず、その「行動」も変えることができました。
怒りの感情が収まると状況を冷静に整理することができるようになり、今必要なことは何が見えてきました。私の目的は「子どもたちに私の言うことを聞かせること」でも、「敬意を示させること」でもなく、そう、「部屋を片付けさせること」だったのです!
人間は練習することで再評価がうまくなる
どうしたら「部屋を片付けさせる」という目的を達成できるかに意識を向けました。そこで私は子どもたちに「今から片付け競争を始めますよ。部屋の半分はママ、こっち半分はみんなで片付けて」と伝えました。
「どっちが早いか競争! よーいドン!」と言って私が片付け始めると子どもたちもすぐに取りかかってくれ、10分ぐらいで片付けが終わりました。
子どもたちもきれいになった部屋を見て「こんなにきれいになって気持ちいいね!」と笑顔で言い、達成感を得ているようでした。
あのとき、もし怒りを抑えられず、子どもたちを叱りつづけてしまったら、家の中は険悪な雰囲気に包まれ、子どもたちだけでなく私にとっても後味の悪いものになったことでしょう。
また、もし私の目的が「子どもたちに私への敬意を持たせること」にすりかわってしまっていたら、私が怒鳴って子どもたちに強制的に言うことを聞かせることで、その目的を達成していたでしょうか? 答えは言うまでもありません。
こんなふうにいつもすんなり解決というわけにはいきませんが、再評価によって自分の感情や状況を捉え直すことで、ポジティブな気持ち、そしてよいアウトカムに変えていくことは可能なのです。
加えて、うまくいった例を振り返って、「自分がこう考えることで自分の気分のコントロールができた」と気づいたり、あるいはうまくいかなかった例を振り返って、「ここで再評価するんだったな」と反省したりするといいでしょう。
人によって脳機能に生物学的な差異はあるとしても、人間は自分の思考を使って前頭前野を活性化させ、よりうまく「考える」脳部位である前頭前野と「感じる」脳部位の扁桃体の連携を鍛えることができますし、こういったことの反復で少しずつ再評価がうまくできるようになっていくということは私自身が実感しています。