子育てをしていると、子どもの「怒り」に振り回される機会が急増する。怒りを手放すことができたら、どんなに楽だろうか。しかし、子どものアンガーマネジメントをテーマにした絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』を監修した児童精神科医の岡田俊さんは「怒りは人間が生きていくために必要な感情。子どもの心を育むうえでも大切に扱うことが必要だ」という――。(聞き手・沖本敦子)
ソファで飛び跳ねる子供と頭を抱えている母親
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怒りは、人間の自然な感情

子どもとの時間が増える夏休みなどの長期休暇は楽しくもありますが、子どもの癇癪かんしゃくや要求に疲れ、つい感情的に子どもに怒り返してしまった……ということも少なくないと思います。子育てをしていると、「怒り」という感情に振り回される機会が増えますよね。

新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイインターナショナル)
新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

「怒り」は、自分の心が傷つけられたときや、自分の立場が脅かされたときなどに生じてくる自然な感情のひとつ。怒りの感情を抱くことは人間にとって自然なことですから、それ自体は何も問題ではありません。動物には闘争・逃走反応(fight-or-flight response)が備わっていますから、恐怖や不安に襲われると、脳が「闘うか、逃げるか」を瞬時に判断して反応が起こります。

ただ、人間は高次なコミュニケーションをする生き物なので、怒りに対処するさまざまな方法を身につけています。自分が感じた怒りをそのまま相手に攻撃としてぶつけてしまうと、相手との関係性が崩れたり、トラブルが発生してしまうことがあるためです。

子どもが癇癪を起こしやすい理由

そもそも子どもが怒ったり、癇癪を起こしやすいのには理由があります。それは養育者を困らせてやろうとか、悪いことをしてやろうと思っているからではありません。まだ幼いために、自分の感情や欲求を吟味して、言葉で表現することが苦手だからです。子どもは大人と違って、言語化や人間関係を構築するスキルが未発達で、発展途上であるということは、まず理解しておきたい点です。

心身ともに発達の途上にあって、まださまざまなことが思うようにできないというのも理由のひとつでしょう。絵を描く、ものを作る、言葉で伝える、何かを追求する――子どものなかには表現したいものがたくさんあふれています。でも、それが今の自分のスキルでは上手にできない。それがもどかしく、怒りという表現につながることもよくあります。

何よりも、子どもは庇護されるべき存在ですから「わかってほしいのに、わかってもらえない」とフラストレーションを感じたときに、それを怒りで表現することがあります。こわい、つらい、寂しい、甘えたい、あるいは、困難が生じている今の状態を解決するために手助けをしてほしい、信じていたのに裏切られた――子どもが成長する上で、フラストレーションを感じる場面は常にあるわけです。そういった気持ちを大人にわかってもらったり、慰めてもらったりという受容を通じて、心が落ち着いたり、安心したりという経験を、赤ちゃんの頃から数えきれないほど繰り返していく。その積み重ねが、子どもの心の器を広げていきます。