切られたら、真っ逆さまに堕ちるだけ――そんな恐怖を眼前にした、もしくはそれが現実となった3人に話を聞いた。果たして彼らは“お荷物”だったのか?
「20年近くいた前の会社は同族会社でした。バブルの頃はよかったですねえ……。ボーナスは年に何度も出たし、社員旅行も毎年海外だった」――現在、子ども2人を公立高・私立大に通わせる中小機械メーカーの田所学さん(仮名、53歳)の胸中は複雑だ。
「4~5年前には、『オレもリストラ対象に入ったのかな?』とは薄々と感じていました」
かつて、社長夫妻とは自分の妻と4人で度々コンサートに出かけた仲だった。その社長から、「高い給料ばっかり貰いやがって」と言わんばかりの視線を感じた。
「5年前、ボーナスを貰うために呼ばれた社長室で、十数年前の仕事のミスを蒸し返されたんです」
すでに記憶もあやふやな些事を社長が持ち出した理由は、言うまでもなかった。
「『これ以上いっしょに仕事はできない』と。『辞めろ、ということですか』と聞き返したら、『ああ、そういうことだ』」
総務部にいた社長夫人に手招きされ、職場の片隅で、「自己都合(退職)にして」「そのほうが、次が決まらなかったときに失業手当が多く貰えるわよ」「あなたにとっていいことだから」と諭された。
「そういうことを全然知らなくて、言われた通り退職届を出しました」
500万円貰えるはずだった退職金が、3割減の約360万円に激減。帰省して転職を報告したら、「何でそんなことをしたんだ」と言われ、そこで初めて気づいた。自治体労働局の紛争調整委員会に申請書を出し、会社と争った。
「会社側とは別々に聴取されました。『向こうは“彼は自己都合の退職届を自主的に出してきました”と言ってるぞ』と言われた」
申請は却下された。退職金は30万円追加されたものの、本来受け取れた額にはほど遠い。