会社経営においては常に、その時代に合った技術論や方法論がもてはやされるものだ。むろんそれも必要なことだろうが、どれほど時代が変わっても普遍的な価値観を忘れてはならないと思っている。
いま、私も社長という立場になり、かつて支社長だったときとは比べものにならない数の部下を持つようになった。そこでやはり、不愉快な意見も含めて「聞く力」を何よりも大切にしたいと思う。
もちろん社内のみならず、お客様の声にも耳を傾け続けることだ。生命保険業界は支払い問題などがあったこともあり、お褒めの言葉よりお叱りの言葉をいただくほうがはるかに多いものだ。
しかし、本当に頭にきたとき、人は何も言わなくなる。そうなれば最後、黙って切り捨てられるだけだ。だからこそ、言ってくれる人の存在は本当にありがたい。
新井氏に渡された紙がきっかけで読んだ『菜根譚』は、すでに何度も読み返したが、そんな、人として生きるうえでの普遍的な真理を説いているのだと改めてわかった気がする。
後で知ったのだが、新井氏が社長だったときも、この「逆耳払心」という言葉を、とりわけ大切にしていたようだ。
佐藤義雄氏厳選!「役職別」読むべき本
■部課長にお勧めの本
『人を動かす』(新装版)D・カーネギー著、創元社
1937年に初版が出て以来、累計で1500万部を売り上げた自己啓発の名著。歴史上の人物、産業界のリーダーなどの逸話を交えており、非常に読みやすいながら、マネジメントの真理をついている。
■若手、新入社員にお勧めの本
『後世への最大遺物・デンマルク国の話』内村鑑三著、岩波文庫
明治27年の夏期学校における講演をもとにした本。デンマークがなぜ豊かになったかを例に挙げ、普通の人間にとって実践可能な生き方、後世に何かを遺せる生き方とは何かを提示する。人生について改めて考えさせられる一冊。
『平生の心がけ』小泉信三著、講談社学術文庫
慶應義塾の塾長を務め、経済学者として優れた業績を残した著者が、人間としての日常的な心構えを説いている。一般向けのエッセイであることから文章も平易で読みやすい。
※すべて雑誌掲載当時