サーカスみたいにこの街を去る?

ローストチキンの専門店「ポヨ」。吉祥寺駅北口真っ正面。2008年オープン。

【手塚】不動産をどうコントロールするのかっていうことがやっぱり重要なんだよ。そんなことに今ごろ気づいたのかって言われるかもしれないけど(笑)。ぼくらの商売ってコバンザメじゃないですか。どこか繁盛しているところがあったら、そのそばに行って売る。駅ができたら駅のそばに店を出す。自分で街をつくろうという発想なんかなかった。だから不動産の情報そのものが共有されていないんですよ。すごくクローズド。まずあれを共有するような仕組みからつくっていかないと。

武蔵野市の市会議員の中にも、学生にアパートを貸すのであれば、大家に少し補助をしたらどうかと言っている人がいるんですが、ぼくはとりあえず家賃を安くして、若くて面白い人が移り住むようになったら、この街は何とかなると思うんですよ。

【三浦】市議会議員って、その多くが地主ですよね。

【手塚】そう。そして議員って1票持った人しか相手にしないんだよね。世田谷から吉祥寺の商業地域に買い物に来る人には、武蔵野市の1票がない。なのに、吉祥寺の街自体としては商業の位置づけが大きい。ここに問題があるよね。最近はこういうまじめな話を考えるようになっちゃった。これ、面倒くさいよね。人生いくつあっても足りないですよ(笑)。

ぼくもここまでやって来ると、すごい物件情報とかが入ってくるんですよ。それを自分で全部やるというわけにはいかないので、誰かに紹介したりはしています。最近は、「吉祥寺に住もう」って言い続けています。このハモニカ横丁にも、2階におばあちゃんが住んでいた店があったわけです。店をやっている人はみんなここに住んでいたのに、一発儲けて、マンションを買って出ていったわけ。それがロンロンに負けたひとつの原因でもある。やっぱり住んでないと戦えないんですよ。おばあちゃんも、子ども住んでいる、いろんな人がいるということが強さなんだと思う。

【三浦】住んでなきゃテナント入れることしか考えないですからね。やっぱりこれからは住む人ですよ。1カ月でもいいから、いかに住む人を増やすか。住みたいまち1位の吉祥寺には2年間も高い家賃と敷金・礼金を払って住むことはできないけれど、1カ月なら住めるような仕組みをつくるといいと思う。空いた部屋を埋めるのはそれしかないでしょ? だってもうテナントは入らないんだから。儲からないし、もう焼き鳥屋も十分だし。

【手塚】いや、本当、十分(笑)。

【三浦】住んで面白くなりそうなところは、離島でも吉祥寺でも生き残るけれど、どうでもいいところは、あっという間に人がいなくなっちゃいますよ。

【手塚】ハモニカ横丁に住もうって考えたとき、街として必要なものって何なんだろうな。絶対なきゃいけないものってあるじゃないですか。クリーニング屋とか、たばこ屋とか。そんなことを考えながら街の中を歩いて見ていると、なかなか面白い場所がまだまだあって、ここは何かに使えないのかなとは思う。歩いて見てそんなことを考えるのは、今も楽しいですよ。要は吉祥寺をネタに遊ぼうということなんだよね。

【三浦】サーカスみたいにどこかには行かないと。

【手塚】わかんないな。そんなに格好いいことやっちゃっていいのかなとかって思うじゃないですか。ちょっと頭でっかちかなとかね。

でも困るでしょうね、一挙にぼくが引き揚げたら。抜けたら、新宿のしょんべん横丁とか、思い出横丁みたいになるでしょうね、たぶん。

<次回予告>ハモニカキッチン生みの親・手塚一郎さんは、どんな道を辿って現在に至ったのか。なぜ、人がやらないことを思いつけるのか。第2回《「ハモニカを創った男」はどのように出来上がったか》は10月12日掲載予定です。

(構成=プレジデントオンライン編集部 石井伸介)
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