真正面から向き合うと、相手を緊張させる

コミュニケーションの基本姿勢は「正対」です。つまり、「真正面で向き合う」ということです。

相手に対して正面を向けるということですが、これは顔だけのことを言っているのではありません。おヘソを相手に向けること、つまり、“体ごとしっかり相手に向けること”を指しています。

以前、マナー研修でこの話をしていたときに、受講生の一人がこう言いました。

「私は真正面から向き合われるのが苦手で、怖いと思ってしまいます。私のような人も多いと思います。本当にそれがいい姿勢なのでしょうか」

確かに「真正面」というのは、威圧的な印象を与える、緊張感を生みやすい位置です。これを「スティンザー効果」と呼ぶこともあります。アメリカの心理学者スティンザーが提唱したもので、相手との位置関係が生み出す心理状態を次のように表しています。

真正面=反対意見が生まれやすい・敵対しやすい
=同感しやすい・味方になりやすい
斜め=リラックスしやすい・意見の衝突が起こりにくい

実際に、カウンセリングの場などでは、相手と真正面から向き合わないように席を配置していることが多いです。真正面から見られることが苦手な人は少なくないのです。

重要なのは自分の正面を相手に向けること

ただ、コミュニケーションにおける「正対」とは、「真正面から向き合う」ではなく、「真正面で向き合う」ことを指します。

つまり、もっとも意識するのは“相手の正面”ではなく“自分の正面”ということです。

仮に相手がこちらを向いていなかったとしても、自分の心と体をしっかり相手の方に向けるということなのです。ですから、必ずしも正面同士で向き合っているとは限りません。

相手の正面にこだわると、「正対」ではなく「敵対」になることがあります。

映画などで、主人公が街中で敵などに絡まれるシーンで、絡んでくる相手が主人公を睨みながらわざと真正面に立ちはだかって難癖をつける、というのがありますよね。相手の真正面を取ることで、自分の存在感をアピールしているわけです。