口は災いの元という。話す言葉によって、相手が受ける印象ががらりと変化することがある。伝わる表現アドバイザーで産業カウンセラーの山本衣奈子さんは「何かうまくいかないことが起こったとき『ほらね、やっぱり』と言う人がいます。これは自分の考え方が正しいということを主張するための言葉で、遠回しに違う意見や考え方を否定しています」という――。

※本稿は、山本衣奈子『「気がきく人」と「気がきかない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

チャットのコンセプト
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです

気がきく人は「念のため」と言い、気がきかない人は「前にも言ったけど」と言う

人間誰しも、時間が経てば記憶は薄れ、覚えていたはずのことがいつの間にか頭の中から消えている、なんてことがあるものです。

いくらこちらが忘れないでほしいと思ったとしても、相手の頭の中をコントロールできるわけではなく、うっかり忘れられてしまうことはよくあります。

気がきかない人は、相手が忘れることを許せず、場合によっては非常に腹を立てて相手を責め立てたりすることがあります。

もちろん、約束事など相手が関わっていることを忘れずにいることは大切なことですし、忘れないように工夫することも必要です。けれども、わざと忘れたわけではないのに必要以上に強く言われることは、不要な言い合いを招きやすくなります。

これはそもそも、「ちゃんと伝えたのだから、忘れないはずだ」という考えが引き起こしていると言えます。その考え方が「忘れないはずのことを忘れているなんてどういうことだ」という怒りを生み出しているのです。

その点、気がきく人は、最初から「忘れることもあるかもしれない」と考え、相手が忘れる可能性を考慮しています。

ですから、どんなことも投げっぱなしにはせず、確認を丁寧に行います。その際によく使っているのが、「念のため」という言葉です。

「忘れるかもしれない」と思っているとしても、あまりにしつこく確認をしては、相手に「信用していない」という印象を与えかねません。

心理学に「自己成就的予言」というものがあります。これは、アメリカの社会学者ロバート・K・マートンが提唱したもので、未来の出来事に対して「こうなるだろう」と予測すると、仮にそれがその通りではなかったとしても、予測した人の行動を通して現実化するというものです。

例えば、「きっと試験に失敗するだろう」と繰り返し考えていると、その不安が集中の邪魔をして勉強時間に悪影響を与え、結局失敗してしまいやすくなるのです。

だからこそ、「念のため」なのです。

「念のため」には「万が一に備えて」という意味があります。「忘れるかもしれない」という予測を現実化させないために、あえて言葉で予測を断ち切るような効果があります。

「念のためもう一度言っておくね」
「念のため確認してもいい?」

こういった言い方は相手に対する信用を前提として伝わります。

同じ確認でも、「前にも言ったけど」といった言い回しを使うと、忘れることが前提に変わってしまい、「忘れると思うからもう一度言う」という意味を含めて相手に伝えることになります。これが責められているような印象となって受け取られやすいのです。

「念のため」という言葉は、聞きにくいことを聞きたい場合にも使うことができます。

私はコールセンターで働いていたころ、名前や電話番号や住所などを聞くときに必ずつけるようにしていました。というのも、手続き上必要とはいえ新規ではないお客さまには、「電話番号も住所ももう知っているはずなのにどうしてまた聞かれなければならないのか」といういらだちを感じさせることがあったからです。

ただ尋ねるだけだと、「もうそっちでわかってるはずでしょ。どうして何度も聞くわけ?」と言われてしまうことも少なくなかったのですが、「念のためにお伺いしてもいいでしょうか」と尋ねると、ほとんどの場合すっと答えてくれました。

「念のため」には、自分のためにというより、おたがいの安心のために伝えているという印象を与える効果があります。確認や依頼の際には特に、この言葉を取り入れてみることをおすすめします。

★気がきく人は、「念のため」をうまく使う!